オスカー剥奪危機の裏側で。ウィル・スミス激昂ビンタの波紋

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  • author satomi
オスカー剥奪危機の裏側で。ウィル・スミス激昂ビンタの波紋
ウィル・スミス激おこビンタの衝撃に揺れるアメリカ Image: Gettyimages

賛否真っ二つ。事と次第によっては厳罰がきそうな気配。

脱毛症の妻を「GIジェーンの続編に出れるね」とジョークネタにされ、司会のクリス・ロックに平手打ちを食わせたウィル・スミス。ビンタの44分後にはウィリアム姉妹の父親役で人生初のアカデミー主演男優賞を受賞して家族愛を涙ながらに語りましたが、一緒にされたくないと感じたのか、本物のウィリアムパパから「暴力は駄目だよ」と豪速のけん制球が放たれていますよ。

アメリカの放映ではビンタ後に「俺のカミさんの名前を二度と口にするんじゃねえ!」と泣きながらFワードを交えて怒鳴る声がごっそり消されたので、みんな最初はジョークの延長かと思っていたのですが、ニュースやSNSで日本などで流れたノーカット版(↓)を見てやっと状況を飲み込んだ感じです。

(米国では音声がカットされていたので、WOWWOWなどで放映された無修正版がシェアされまくった)

字幕付きはこちら。日本でもろんな意見があってどれも勉強になります。ふたりには悪いけど、ジョークの線引き、傷ついたとき即座に反応すべき否かを含めて、すごくいいトーキング・ポイントになっていますよね。

クリス・ロックは6年前にもウィル・スミスの地雷を踏んでいる

クリス・ロックがジェイダ&ウィル・スミス夫妻をネタにするのは今回が初めてではありません。深夜お笑い番組でウィル・スミスの成功を妬むジョークを飛ばしたこともあるし、2016年アカデミー賞授賞式でも、黒人冷遇の映画産業に抗議する夫妻たちをネタにしてたりします。これがその録画。

こんな感じで、「オスカーボイコットするって息巻いてるけど、ジェイダそもそも招かれてないでしょ。それって俺がリアーナのパンティーの中ボイコットって主張するようなもんじゃね?」と言ってみたり、「ウィルが『コンカッション』でノミネートされなかったの悲しいのはわかるよ。あんな名演技でもダメなんてひどいよね。ま、『ワイルド・ワイルド・ウエスト』みたいな超駄作でも出演料が2000万ドル(約25億円)ももらえちゃうのもフェアじゃないけど」と混ぜっ返してるんですね。

でもこのときは「キャンセルするだけじゃ何も変わらない」という比較的まともなオチだったこともあって、後日報道陣に囲まれたウィル・スミスもピースサインでにっこり受け流していました。しかし今回ばかりは、宿願叶ってオスカー受賞という人生最高の晴れ舞台に…またこいつか!!と思ってしまったのかも。

最初は周りと一緒になって笑っていたウィル・スミスですが、隣でジェイダ夫人が固まっているのを見て、これは笑って流しちゃいけないやつだと行動を起こしたのでしょう。

いかなる理由であれ、手を挙げたら負け

ただ暴力は暴力です。世界中が見ている前で、しかもアカデミー主演男優賞受賞者が、ですからね…。美化すると、たいした理由もないのに真似する輩が出てきてしまうので、おとがめなしというわけにはいきません。

ビンタ直後にも会場から退出させて受賞を剥奪することが緊急で話し合われましたが、意思決定者が会場に散らばっていて審理が間に合いませんでした。現在あらためて映画芸術科学アカデミーがしかるべき対応と処罰を検討中です。

VarietyがLA市警に確認したら、クリス・ロック側には被害届を出す意思はないとのこと。ウィル・スミスも全面的に自分の非を認める謝罪文をInstagramに公開し、二者間では収束の方向です。

病気やトラウマをジョークのネタにすること

賛否をめぐってはいろんな意見があって、騒ぎは続いてます。ジェイダ夫人が頭を全部剃り落としたのは昨年暮れのこと。「毛髪が横一文字に抜け落ちて隠せなくなったので全部剃っちゃった」と動画で報告しています。顔では笑っているけど、丸坊主の頭を受け入れるまでには長い長い葛藤があったはず。やっと受け入れられるようになったのに、それを世界の笑いものにしたら、また振り出しじゃないですかね。こういうのは本当に良くない。ウィル・スミスがビンタ前にも不快感を表明するセレブは大勢いました。

ウィル・スミスは終わったのか

ではウィル・スミスがヒーローなのかというと、そういうこともないのがアメリカ社会です。どんなときにも取り乱してはならなくて、泣いて声を張り上げた時点で、感情をコントロールできない人間扱いです。ましてや暴力は論外ですもんね。これが会社組織ならアンガーマネジメントのカウンセリングとか受けないと復帰できない局面です。涙、涙の受賞挨拶ではいちおうスタンディングオベーションとなりましたが、それを見て不快感を表明するセレブも同じくらいいました。最悪、受賞剥奪になっちゃう…のかなあ…。

ウィル・スミスの父親は飲んだくれで母親を殴る人でした。母親を守れなかったことにずっと罪悪感を抱いて育ったのがウィル少年です。一番やりたくないことを夢のステージでやってしまったことになり、なぜ冷静に口頭で抗議できなかったのかと悔やまれてなりません。

しかし長いことパワーカップルとしてネタにされてくれば、人間、限界もきますよ。それがたまたま人生最高の瞬間の44分前に来てしまったと…。ステージの袖でウィルをなだめたデンゼル・ワシントンの言葉じゃないけど、「最高の瞬間に悪魔は囁く」、です。

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