一瞬で変色。
タコやコウイカには周囲の環境に合わせて擬態するという能力があります。一方、同じ頭足類でもその能力に関する報告がなかったのがツツイカです。そこで日本の研究チームが、研究施設内でツツイカの擬態能力を検証する実験を計画。ツツイカの仲間であるアオリイカが、背景に合わせて色を変える様子を捉えることに成功しました。
他の頭足類と同じように、ツツイカは皮膚に数千もの色素胞(体色変化に関係する細胞)を有しています。この色素胞が伸縮することで体の色を暗くまたは明るく見せ、仲間とのコミュニケーションや、周囲の環境に溶け込むことが可能になります。
実験に用いられたツツイカの一種であるアオリイカ(Sepioteuthis lessoniana)は、この種の環境に合わせた擬態を行う姿を観測されたことがありません。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームはアオリイカを飼育して、イカが水槽に合わせて体の色を変える様子を記録。その研究成果は先日、Scientific Reports誌に掲載されました。
色を変えれば食べられない
この論文の筆頭著者でミネソタ大学ダルース校の准教授である中島隆太博士は、OISTのプレスリリースで「通常、ツツイカは外洋で遊泳していますが、(中略)サンゴ礁に少し近づいたり、捕食者によって海底に追い詰められたりするとどうなるかを調べたいと思いました」とコメント。「ツツイカが捕食を避ける上で、生息環境が重要な役割を果たすのであれば、ツツイカの個体数の増減とサンゴ礁が健全であることの間には、私たちが想像していた以上に関連があることを意味します」と述べています。
これまでツツイカの擬態能力が知られていなかったのには、いくつか理由があります。ツツイカは飼育するのが難しく、またタコやコウイカと異なり外洋に生息する傾向にあるため、周囲に溶け込めるような環境があまりないのです。
チームが研究していたアオリイカは、その環境で体色変化の兆候を見せたことがありませんでした。スミソニアン協会とNOAA(アメリカ海洋大気庁)の無脊椎動物学者であるMichael Vecchione博士によれば、「大西洋にいる近縁種のSepioteuthis sepioidea(カリビアン・リーフ・スクイッド)はたくさん観察されており、その習性と色のパターンなどについての記述は多いが、そのほとんどがフィールドでの観測に基づくものだ」とのこと。
環境に合わせてカラーリングを変えられる
Vecchione博士は電話取材で、「私が知っている限りでは、管理された研究施設内で行われたものとしては初めて(の擬態)だ」と語っていました。
沖縄沿岸の本来の生息地だと、アオリイカは水面から差し込む太陽の光を反映したような淡い色をしています。ところが水槽の中に閉じ込められたイカたちは、その場所の見た目を真似ることができたのです。
研究者たちは水槽の清掃中に、イカが漂っている場所(藻類に覆われたエリアか清掃されたエリアか)に合わせて体の色を変えていることに気付きました。
その後、水槽の半分をあえて藻で覆わせ、残り半分はきれいに掃除することで、そんな色の変化を記録できる実験を考案。アオリイカは藻のある側では深い緑色に変わりましたが、掃除された側に泳いでいくと、ほぼ半透明になったのでした。
沖縄科学技術大学院大学の生物学者で論文の共著者であるズデニェク・ライブネル博士は、プレスリリースで「これは、実に驚くべき反応です。そして、この能力にこれまで誰も気づかなかったことにも、いまだに驚いています」と述べていました。「これらの素晴らしい動物について、知らないことがいかに多いかということが分かります」とコメント。
飼育環境下においてですが、ツツイカの生態の秘密が少しだけ明らかになりました。この習性が自然な環境下ではどう変わるのかという疑問については、別途調べる必要がありそうです。
Source: Smithsonian Ocean Portal, Scientific Reports, EurekAlert, 沖縄科学技術大学院大学, YouTube