「味覚ってテクノロジーで強化できちゃったりするの?」専門家に聞いてみた

「味覚ってテクノロジーで強化できちゃったりするの?」専門家に聞いてみた

味覚ってするどい方が幸せなのかな。

トップ料理人やソムリエのドキュメンタリーを見ていると、そのストイックな姿を尊敬する一方で、そこまでの味の違い私はわかんないや…って思うこと、けっこうあります。何食べても美味しいから幸せでーす!と思いつつ、もっと繊細な味がわかれば広がる世界もあるのだろうと思えば羨ましくもあり。何かを願うとき、ギズ的な人は思うのです「それ、技術の力でなんとかならんのか?」って。てことで専門家に聞いてみました。

テクノロジーで味覚を強化できませんか?


Kai Zhao氏「舌を刺激すると効果あるかも」

オハイオ州立大学 鼻生理学&治療学センターディレクター

舌刺激するだけでも効果があるかもしれません。

舌の表面には味を感じるためたくさんの乳頭突起があります。この乳頭にある味を感じる味蕾まで、しょっぱさや甘さという味分子は唾液なんかと一緒に流れていきます。なので、舌を動かしたり、口の中をグチュグチュっとすることで、その流れを強め、結果、よりしっかり味分子が味蕾に届く可能性はありますね。


Emily Liman氏「今のままで十分だと思うけど、答えるならYes」

南カリフォルニア大学 生物化学教授

そもそもなぜ味覚を強化したいと思うのでしょう。ほとんどの場合、人の味覚は今のままで十分だと思いますけどね。

味覚を強化したいかどうかはさておき、テクノロジで強化可能かという質問の答えはYESです。基本の味覚5つ(塩味・甘味・酸味・苦味・うま味)に関する分子受容体はすべて特定されています。なので、甘みを強めて苦味を抑えるなど、特定の分子受容体を加えるなどして動きを強める、弱めることは可能でしょう。


Julien Delarue氏「mRNAを注入することで、味覚強化はできるでしょう」

カリフォルニア大学デービス校 感覚&生活科学助教授

理論上は可能です。味覚受容体は舌の表面にある膜貫通型タンパク質であり、すで遺伝子的にも広く解明されています。つまり、将来的にはこれらのタンパク質生成のトリガーとなるmRNAを注入することで、味覚強化はできるでしょう。

ここで気になるのは、なぜ味覚を強化したいのかということ。敏感な味覚っていいものではないと思いますけどね。味覚は、人によって大きく異なり、幅があります。生物テクノロジーを使わずとも、もともと超人的味覚を持つ人もおり、その場合甘さと苦さに敏感なことが多いですね。実は、私もそのタイプなのですが、味覚が凡人並みならなと思うこともありますよ。

味覚をを強化できるかという疑問と同じく、食べ物の味自体を強化することはできるのかという疑問もわきますが、これも可能です。味物質とフレーバーを強め旨味をだせばいいわけで、例えば日々のお料理でも、きのこやお出汁を使ったりしますね。グルタミン酸やMSGなどもそのひとつです。こうすることで、例えば塩分を減らしつつ美味しくしたり、プラントベースお肉の旨味を出したりするわけです。


Richard Mattes氏「思っていた以上に感覚というのは広いもの」

パデュー大学 栄養科学教授

味の研究は新たなフェーズに入った、思っていた以上に感覚というのは広いものだとわかる時だと感じています。塩味・甘味・酸味・苦味・うま味以上の化学物質を感じることができるかもしれないなぁと。脂質、でんぷん、カルシウム、二酸化炭素なども、人間は感じとることができるという研究がでてきています。これが本当ならば、将来的に私たちが感じる味はもっともっと広がっていきますよね。いや、感じるのは始まりにすぎず、そこから生理学的、行動学的アプローチで、種の存続に関わっていくかもしれません。


Linda Bartoshuk氏「ヘルシーな食べ物をより美味しくすることならできます」

フロリダ大学 食品科学&人間栄養学教授

テクノロジーで人の味覚を強化することはできません。でも、ヘルシーな食べ物をより美味しくすることならできます。

健康的な食生活を送ることってなかなか難しいです。だって、甘いものやしょっぱいもの、こってりした食べ物がみんな好きですから。これは脳がそうさせるからであって、赤ちゃんが生きるために糖分や塩分、脂質を必要とするのと同じことです。

歴史を振り返ると、その昔、砂糖、塩、油を摂取するのは簡単なことではありませんでした。子孫さえ残してしまえば、その後の自分の体はどうでもいいという生物的問題も影響しているのかもしれません。人類の進化において、その辺りのメタボリズムは変わらなかったのですね。

体に優しい甘さを作ることはできるか…、たぶん無理でしょう。人工甘味料のサッカリンがもてはやされたこともありましたが、実は肥満の元になることも現代の研究では指摘されています。人体に害を与えない美味しい食べものの研究は進み、最近では揮発性物質が注目されています。香りはまさに揮発性物質。食べ物を噛むと、揮発性物質である匂いがたち、脳はこの香りが口の中から来たとして口内に集中します。これがフレーバー。

フレーバーと味は密接な関係にあります。フルーツ、例えばイチゴなんて香りによって味が強化されるわかりやすい食べ物の1つです。1970年代、私がフロリダに来て園芸学の研究を始めたころ、甘い香り、つまり甘みの強い揮発性物質を含むフルーツをたくさん見つけました。この甘い揮発性物質を砂糖や人工甘味料を含む食べ物に加えると、より甘くなります。揮発性物質による味の強化は、味覚に損傷がある人、コロナで味覚が鈍ってしまった人にも有効です。揮発性物質は脳に直接腹きかけるので、味覚自体をスルーしているのです。

揮発性物質を利用した製品実用化はまだ先ですが、研究室レベルなら揮発性物質で甘さを強化した食べ物をお試しできますよ。

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