依存症を一発で治せる薬はできる?

  • author Daniel Kolitz - Gizmodo US
  • [原文]
  • 湯木進悟
依存症を一発で治せる薬はできる?
Image: Vicky Leta - Gizmodo US

万能薬なんてない?

ドラッグやアルコールなどの依存症と闘うため、さまざまな取り組みならびにアプローチの研究が進められています。でも、もしも薬を服用したら速攻で依存症から解放されたり、ワクチン打ったら瞬時に依存症に苦しまなくなるみたいな療法が完成したら、こんな素晴らしいことってないんじゃ?

あらゆる疑問に専門家が答えてくれる「Giz Asks」シリーズ。今回は依存症との闘いの最前線に迫ってみましたよ!

George Koobさんの意見

National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism(NIAAA)所長

そういう薬は存在しないと思いますが、不可能なことでもないでしょう。

ドラッグの依存症に関していうならば、脳内の変化が関係しています。その変化は、日常生活で使用している脳内回路に及びます。食事や住居を求めたり、子孫をもうけようとしたり、苦痛を伴う嫌なことを避けたりするときなどに使用するものです。ドラッグがこの回路システムに達すると、まずは本当に気持ち良い状態になります。でも、その後に揺り戻しがきます。これは避けることができません。気持ち良い状態の回路を回しすぎるなら、必ず気持ちが落ち込む回路が、いわば二日酔いのように続くのです。そしてこのいわゆる二日酔いは禁断症状へとつながり、長引いて惨めな状況に人々を陥れてしまいます。

それゆえに依存症を治すことは難しいのです。いまや回路をホメオスタシス、つまりノーマルな動作範囲へと戻さねばならないのですが、これが簡単ではありません。なぜなら、ときに変化は恒久的なものになり得るからです。アルコールやドラッグの過剰摂取は前頭葉を破壊し、長く続く欠陥を作り上げてしまいます。破壊されてしまった回路を元に戻すことはできません。できることといえば、いうなれば物事を巻き戻すべく、別の回路を強化するというアプローチです。

自己鍛錬などと呼ばれる心理学の分野があります。これは依存症との闘いにとりわけ役立つでしょう。若者、青少年、あるいは思春期に差しかかろうとする子どもたちに、自分を律することを教えるんです。まずは挑戦となる問題に直面する前に、この分野で自分を強めておくことこそが、いうなれば依存症の「治療薬」となるのでしょう。アプローチはこんなところになりそうで、決して錠剤を飲んだら治療できるといった類のものではありません。

もしかすると、その自己鍛錬をサポートする一環で、なんらかの薬が誕生したりするかもしれませんが、本当に大切なのは人間として自らを律する能力の強化です。自己鍛錬とは適切なスタンダードを定め、自らの活動を見守り、誘惑に抵抗できる強さを身に着けることです。

Judith Griselさんの意見

Bucknell University心理学教授としてドラッグ依存症の原因究明の研究を進めている、著書に「Never Enough: The Neuroscience and Experience of Addiction

依存症を薬で治せるとは思いません。依存症というものは総合的な現象です。考え方、経験やチャンスに対する価値観に影響を及ぼします。感情と行動のすべてに影響するのです。依存症があなたという人間の大部分を占めてしまうんです。

依存症にどのような反応を示すのか、たとえばリスクを取るかどうか、新たな物事に挑戦するかどうかといった人の傾向は、神経生物学的に深く根付いたものです。遺伝子、脳、行動のあらゆるところへ染みついており、その傾向を「治療」してしまうということは、その人を根本から変えてしまわなければなりません。そうして誕生するのは、もはや別人でしょう。

それゆえに今は新たなアプローチが試されています。そのひとつは脳の深部に直接刺激を与えることです。これによって、逆戻りや渇望を抑えようとするのです。その結果はさまざまですが、なかには期待が持てそうなものもあります。あらゆる快楽への道筋を断つといった、明らかに議論を引き起こすアプローチさえ見受けられます。依存症の究極の治療はハイになることへの欲望を断つことで、それは別の問題を引き起こすかもしれません。

ですから、個人的には治療薬など存在しないと考えますが、もっと良質でより効果が高く、ピンポイントで依存症からの脱却をサポートするツールは生み出せると期待しています。依存症による自己破壊衝動から、欲求不満や不安に対処できるプロセスへの発展をサポートするのです。脳に刺激を与えるというのは、その観点からすると行き過ぎているように思えますし、全体的には恩恵よりも害悪のほうが大きいかもしれません。

依存症に伴う結果を軽減するためにできることは少なくないのですが、依存症と闘う人々をサポートするために、それほど多くのことが現時点で成されているわけではありません。自らも依存症を克服した経験からいうならば、ソーシャルなサポート身近な医師からのサポートなどではなく、生物医学的な戦略で依存症を治療しようというアプローチそのものが興味深く感じられます。長く困難で、多くのリソースを注ぎこまねばならないプロセスとなることでしょう。

でも、特効薬のようなものが誕生する可能性は低いでしょうね。

Antoine Becharaさんの意見

University of Southern California心理学教授として意思決定や各種依存症に対する神経科学の研究を進めている

依存症というのは、意思決定に関わる病です。ほとんどの人は、意思決定の脳メカニズムにおいて問題がなく、それゆえに依存症に陥ってしまうことはありません。問題は誰が危険性を抱えており、どのようにそれを見極められるかという点にあります。これまでの研究で、いかにして中毒性のあるものに晒される前に危険性を抱える人物を特定し、どうすれば依存症を治療していけるかに重きが置かれてきました。

ドラッグの使用に関する30年以上に及んだ研究では、眼窩の上部に位置する眼窩前頭皮質に注目されることはほとんどありませんでした。この部分は意思決定や自制心、長期的な目標の設定から衝動的な感情の抑制、行動の結果を予期することに至るまでを司っています。眼窩前頭皮質が弱いと、依存症に屈しやすい人間になってしまいます。しかしながら、ほかにもふたつのカギとなる神経系が依存症と大きく関連しています。ひとつは以前からよく知られているもので、中脳辺縁系ドーパミン系です。ドラッグとドーパミンの直接的な関連や、ほかにもショッピングや食事、スマホの使用などでもドーパミンが役割を果たすことがあります。もうひとつは新たな発見に基づいており、脳内の島皮質とよばれる小さな領域で、喫煙や特定の物質への依存症と大いに関係しています。

ですから、将来的な依存症の治療へのアプローチは、この脳内の3つの領域をターゲットにすることとなるでしょう。ドーパミン/腹側線条体/側座核と眼窩前頭皮質と島皮質です。

これまでの研究からすれば、Iowa Gambling Task(IGT)として知られる臨床試験に似た取り組みで、オピオイドなどのドラッグの誤用や依存症に陥りやすい人々の抽出を実施すべきです。ヘビースモーカーやギャンブル依存、ソーシャルメディア中毒に陥りやすい人物の特定にも、このメソッドはつながっていくことでしょう。

すでに依存症を抱えている人に対して、いくつかの有効な可能性を有する治療へとつながりそうな研究があります。まずは眼窩前頭皮質の活性化や強化という研究です。記憶能力の向上を目的としたトレーニングが、眼窩前頭皮質の機能を高める可能性があるというアプローチも報告されています。

ほかには「マインドフルネス」のトレーニング研究が進められるでしょう。神経画像を使用したアプローチで、注意力についての研究を進め、マインドフルネスと眼窩前頭皮質の関連性や自制心の向上と依存症への抵抗力の発展を見極めていくことができます。

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