巨大テック企業も続々参入。二酸化炭素削減を公共事業にできないか?という話

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巨大テック企業も続々参入。二酸化炭素削減を公共事業にできないか?という話
Image: Shutterstock.com

先月、Google(グーグル)の持株会社Alphabetや、Meta(旧Facebook)などが協力し、二酸化炭素削減技術開発を推し進めるプロジェクト「Frontier」を発足しました。創立企業は2社のほか、オンライン決済サービスを提供するStripe、ECサイトを手がけるShopify、マッキンゼーのエコグループMcKinsey Sustainabilityの計5社。プロジェクトは2030年までの9年間で9.3億ドル(約1,200億円)を投資し、人工的に除去・吸収された炭素を購入する炭素除去プラットフォームを提供。これによって技術促進を進めたい考えです。

CO2削減は遅々として進まず

IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の掲げる地球の平均気温上昇を1.5度以内にするという目標を達成するには、2050年までに年間約60億トンの二酸化炭素削減が必要。しかし、現状は永久除去された二酸化炭素は、年間たったの1万トン未満。目標にはほど遠いことから、Frontierいわく「業界が今すぐに緊急性をもって技術構築を開始できるよう自信を与える」ことが必要だといいます。そのための炭素除去プラットフォームを作るというFrontierの活動は素晴らしいと思いつつ、大企業が地球の未来を担う業界を作っていくということに不安を感じるという意見も…。

ハーバード大学で科学と炭素除去に関する政府の取り組みを専門に学ぶ博士課程の学生Toly Rinberg氏は、「Frontierプロジェクト発足は、目標達成に向け炭素除去が早急に必要であることを認識すると同時に、その費用はいくらかかるのか?どういう仕組みで行われるのか?という疑問も湧く」と語っています。

炭素除去は地球のために必要ではありますが、すべてをチャラにする万能ツールではありません。鉄鋼や石油科学、セメントなど、脱炭素が難しい業界も一丸となり取り組まなくては問題解決にはなりません。

ワシントンD.C.にあるアメリカン大学で炭素除去法と政策を研究するチームのDavid Morrow氏はこう語ります。「二酸化炭素排出を完全に排除するためのアイディアはあるものの、実現には長い時間が必要です。なので、その問題に取り組みつつも、同時に二酸化炭素削減の仕組みを作る必要があります。ネットゼロの達成が早ければ早いほど、地球温暖化を早く食い止めることができるのですから」

果たして私企業に任せていいのか?

IPCCの掲げる炭素除去方法は複数あり、例えば木を植えるとか、空中から炭素を吸収するマシンだとか、昆布をたくさん養殖するなどがありますが、Morrow氏はいずれも問題点があると指摘。木を植えるのは単純明快ではあるものの、枯れたり切り倒されたら終わりで永久的ではありません。炭素吸収マシンは現状コストが高すぎて、現実的に利用できる技術になるのはまだまだ先。その時間を短縮するには強大な力が必要であり、そのために、ビル・ゲイツ氏は炭素除去のあらゆる方法を探っていますし、シェブロンやエクソンなど石油企業も大きく投資していますし、Xプライズ財団ではイーロン・マスク氏が炭素技術開発のスポンサーとなり、2050年までに年間10ギガトンの除去を行う予定です。こうした取り組みはもちろん良なのですが、前述のRinberg氏は「炭素除去は将来的に大きく成長するということで、今現在取り組むべき脱炭素に対して政治的プレッシャーが弱まってしまうのでは」と語ります。

将来的に成長するという炭素除去技術は、現状では課題が山積み。年間〇トン除去できるという話はどれだけ現実的なのでしょうか? Rinberg氏が共同執筆した入門書では、1ギガトンの炭素除去には、テキサス州より広い8,000万ヘクタールの植林、または現状の技術なら世界の年間消費電力の10%が必要になるといいます。ちなみに、昨年開業した世界最大の空気中から炭素を除去する工場で達成した年間炭素除去は、たったの4,000トン…。ほかにも炭素除去に一生懸命な企業がシリコンバレー、つまりテック企業に多いというのも不安要素のひとつ。開発する技術は企業の知的財産であり、オープンな公的かつ科学的な見解や指摘、改善がどこまで入っていけるのか疑問が残ります(Frontierはプロジェクト運用にあたって専門家に指導してもらい、プロジェクトに応募する団体は公にしていくものの、細かい技術的レビューに関しては公開しない予定とのこと)

だからこそ考えてしまうのです。炭素除去って国がリードする公共事業にはできないのだろうかと。ゴミ収集や水道事業のように、公のインフラにはできないものなのでしょうか。