テクノロジーが価値観を変える時代の子育てに必要なこと :草野絵美さんとネオ子育て対談

  • author Jun Fukunaga
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テクノロジーが価値観を変える時代の子育てに必要なこと :草野絵美さんとネオ子育て対談
Photo: 小林真梨子

AIやIoTデバイス、さらにはメタバースやNFTなど、私たちの生活や価値観を大きく変化させるテクノロジーが急速に広がりを見せています。

小学生の子どもを持つギズモード・ジャパン編集長の尾田は、そのようなコンテンツに日常的に触れている今の子どもたちについて、「自分たちの世代とはデジタルに対する考え方がまったく違う“メタネイティブ”だ」と語ります。

そのような状況の中で今後、私たち大人は次世代を担う子どもたちとどのように向き合っていくべきなのでしょうか? その答えを探るべくギズモード・ジャパンでは、マルチメディア・アーティストであり、長男でNFTアーティストのZombie Zoo Keeperと次男の2児の母親でもある草野絵美さんと尾田の対談を企画。対談の前半では、テクノロジーが人々の価値観を大きく変化させる時代の子育てについて、意見を交換しました。

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草野絵美:株式会社Fictionera代表取締役。東京藝術大学非常勤講師、歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」歌唱担当・主宰。音楽を中心に、アーティストとして未来のテクノロジーに対して問いを立てるインスタレーション等を手がける。

2人の子どもを持ち、数々のメディアで子育てに関するエッセイ執筆やインタビューを受ける。子育てのモットーは「親子で知的好奇心を伸ばす」こと。子育てをプロジェクト化し、親子で一緒に高めあうことを目指している。

2021年、当時8歳の長男のNFTアートプロジェクト「Zombie Zoo」が世界中のアートコレクターたちの目にとまり、最高4ETH(160万円相当)で取引される。息子のコレクションをきっかけに、Web3の世界に飛び込み、マネジメント、ロードマップ策定、IP展開などあらゆる戦略等を行う。

2022年には、アーティスト大平彩華とタッグを組みNFT作品「Shinsei Galverse」プロジェクトもスタートさせる。

子どもと親が一緒にルールを作る

尾田:僕には小学校2年生の息子がいるんですけど、彼が『マインクラフト』や『フォートナイト』といったPCゲームにすごくハマってしまって。 以前は『マインクラフト』でしたが、最近は『フォートナイト』に夢中になっています。

『マインクラフト』は、オープンワールド〜サンドボックス系のゲームで、バトル要素も内包しつつ、コマンドを打てたりなど、プログラミングの基礎教養的なところもあるのがいいなと思っていたんです。実際、サーバーとかバグとかいった単語をすぐ多用するようになっちゃったし(笑)。

一方で『フォートナイト』は、想定年齢としても小学校2年生だとまだ早いのですが、周りがやり始めていて、『フォートナイト』の仮想空間で友達と会うためにやらざるを得ないところもあるようで。親としてはどうかなと思う部分もあるんですけど、草野さんはそういう状況についてどうお考えですか?

草野:私の場合、子どもの触れるコンテンツをコントロールできる間はできるだけこっちでキュレーションして、興味を持ってもらうようにしています。例えば、iPadに教育系アプリをたくさん入れておいて、「それがゲームだよ」みたいな感じにしていましたね。でも、子どもの年齢が上がるにつれて、そのあたりのコントロールは難しくなっていきますよね。

ただ、それは仕方がないことだと思っています。強いて言うのであれば、子どもと一緒にルールを決めてやっていくのが良いですね。例えば、「宿題が全部終わっていれば、1時間できるよ」とかルールを先に伝えておくことで、子どもも自分で決めてやろうという気持ちが生まれるので。

プロゲーマーのときどさんも、親に「勉強で結果を出したらいくらでもゲームやっていい」と言われ続けてきたことで、東大に入学できたそうですが、そういうことを考えるとルールがあること自体が勉強のきっかけになると思うことがあります。

尾田:僕もそのことをインタビューで知り、それが一番良いと思ったんですけど、妻とはいつもそのことで揉めてしまいます。「ゲームのためにがんばるのが勉強の目的になると、常に何か報酬を求めるマインドになる」という意見でした。

草野:その辺は子どものタイプで分かれますよね。うちの息子は集中するとガッと入り込んでしまうし、目の前にご褒美があることで頑張れるタイプです。ただ、生活の中で勉強する目的を繰り返し伝えていれば本人もわかってくれるし、そこは子どもを信用している部分でもあります。

具体的に言うと、勉強したことによって職業の幅が広がるとか、英語を覚えると収入がこれだけ高くなって世界中どこでも働けるようになるとか、「勉強することでこんな楽しいことがあるよ」ということを日々教えてきました。そのおかげか、本人も今は勉強をがんばりたいと思ってくれてるようですね。

報酬制度に関しても「時間をゲームに使いすぎないように、ママがお約束として決めてるだけだから、やりたい放題ゲームをやるならそれでもいいけど、そうするとすごく後悔することになるから、一緒に決めよう」という言い方にして、何のためにやっているかを明確にするようにしています。

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お金にまつわることを子どもに理解してもらうには?

尾田:草野さんの『親子で知的好奇心を伸ばす ネオ子育て』を読んでいてすごく感銘を受けたところなんですが、子どもを養うために自分たちがどんな仕事をしてどれぐらい対価を得ているかということについては、ふつうなら明確に伝えてしまってもいいものか悩むポイントだと思うんです。ただ、草野さんの場合は、逆に相談してしまうぐらいの勢いで、全部教えていたそうですね。

草野:長男のNFTのこと(※)があったので、やっぱり収入のことに関してはしっかり教えておく必要があると思っていて。例えば「これで数十万円入るんでしょ」みたいになってしまうと良くないですし、そもそもこれは一時的なもので普通ではないことを本人にも理解してもらう必要があると思うんですよ。

お金に関する教育は、子どもに世の中の仕組みを自分ごととして考えてもらうきっかけとしては、すごく良いことだと思っていますし、確定申告の本を一緒に読みながら、税金の使い道に関しても一緒に勉強しています。

(※長男でNFTアーティストのZombie Zoo Keeperは、小学校3年生のときにOpenSeaにて作品販売をはじめている)


周囲の大人たちの働きかたは将来の子どもたちの働きかたにも影響する?

尾田:草野さんは会社員・フリーランス両方の立場で働いた経験をお持ちですが、お子さんも同じようにどこかの企業に属して働くよりも、フリーランスとして働いたり起業したりしたいと思うタイプですか?

草野:そうですね。そもそも私の周りには専業主婦だったけど漫画エッセイストになった母、会社員から専業ポッドキャスターになった妹、人気YouTuberの構成作家の弟がいたり、会社員が身近にいないんですよね。

それと夫は研究者なので、好きな研究をしたり、作品を作ったり、企業のアドバイザーをやったりと自分が好きなことをずっとしているんですけど、そういう姿を見ていることもあって、本人は父親と同じことができる研究者になりたいみたいです。

尾田:実は担任の先生との面談で衝撃を受けたことがあって。教室の外に張り出されていた「生徒の将来やりたいこと」という課題提出を見ていると、ほぼ全員がYouTuberかプロゲーマーの二択でした。

もちろんまだ小学生なので職業意識はこれから変化していくと思いますが、その時に、今の子どもたちはどっかの企業に所属して経済活動をしたいという気持ちが皆無に近いんだなあと思って。

草野:確かに今の子どもはそうかもしれませんね。今はYouTuberになりたいのであれば、すぐになれるし、それはみんながメディアを持つ時代になっているからだと思います。

ただ、Zombie Zoo Keeperとして表に立つ際に、息子が「一度顔バレしてしまうと元の生活には戻れないからマスクをしたい」と言い出したのには驚きました。 『カズープ』というNetflixのアニメがあるんですが、そこで主人公の小学生がYouTubeで有名になったら公園で遊べなくなるって言うシーンがあって。有名になるとこれだけ素晴らしいことがあるけど、これだけのリスクもあるよ、と伝えるエピソードが印象的だったのと思います。

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尾田和実:ギズモード・ジャパン編集長

自分の子どもからメタネイティブな感性を教わることがある

尾田:うちの子も試しにYouTuberになることを勧めてみたところ、「YouTuberは危ないからなりたくない」と言ってましたね。草野さんの息子さんの話も含めて、今の子どもたちの意識は僕らが思っているものとは全然違うんだということを実感します。

その点でいえば、佐藤ネジさんも子どもにカフェをやらせてみたり、すごく面白い子育てをされていますよね。彼も自分の子ども世代は、自分たちの世代とはデジタルに対する考え方がまったく違う“メタネイティブ”だと表現しています。

メタネイティブって、“デジタルネイティブ”ともまた違って、要はリアル世界よりもゲーム世界の方にリアリティを感じていることだと思うんですよ。今の子どもたちは、公園に集まる感じで朝から『フォートナイト』の中に集まって、そこで今日どんなことをして遊ぶかを決めてから、リアルの公園に遊びに行きます。『フォートナイト』が起点になってリアルの世界に出かけていくから、僕らとはまったく違う感覚を持っているし、その点に関しては子どもたちから教わることの方が多いですね。


今の子どもと大人では所有の概念が違う

草野: NFTの概念にしても、大人は「何でこのJPEGにこんなに高額な価値がついたんだ?」というところから理解しようとしますよね。でも、息子はメルカリでポケモンカードを出品して、大人が株式市場をチェックするみたいに毎朝、取引相場の変動を私のスマホでチェックするんですよ。だから、NFTの価値が変動することもポケモンカードと同じ感覚で捉えているんです。

でも、それって今の若者がメルカリに出品する時に転売できるかどうかを考えて服を買っていることと同じだと思うんですよね。モノに対する所有欲やコレクションの方法も以前とはすごく変わってきています

尾田:確かに所有の概念はだいぶ違いますね。例えば、子どもたちはハイスペックなゲーミングPCのようなハード自体にはあまり興味を持っていなくて、それよりもソフトに興味を持っているというか。

草野:今は全部ネットで調べられるから、知識量でオタク度は測れなくなりました。そういう意味では道具の使い方が問われてるし、そこに関してはやっぱり時代が変わってきたことを実感しますね。


テクノロジーとリベラルアーツの関係

尾田:子どもたちがパソコンやゲームにどんどん触れるように教育することには賛否両論あります。以前ガンダムの富野由悠季さんが、テクノロジーに関して「理系の人は何でも進化を前提として考えるけれど、一方で進化は劣化でもある。例えば、英語を話したいと思った場合、翻訳機能を使えば話せるようになるけど、それは同時に自分が英語を話せるという能力の劣化にも繋がる」といったようなことを話していました。それに関してはどう思いますか?

草野:テクノロジーに触れること以前に、リベラルアーツやそれ以外の知識や歴史、人間の行動などについて理解していることはとても大切だと思います。テクノロジーはツールでしかないので、それをどう使うかを考えることが重要です。

技術のことを中心に考えていると、革新へ進めるためにも、必然的に楽観的思考にならざるをえません。だから時々、SF映画や小説のような物語にふれ、倫理について考えたり、人類との関り方について考えを巡らせるのはとても重要です。また、多くのテクノロジストやデザイナーは、SF映画を見て、こんなのがあったらいいなと思ったものを技術で実現しようとしてきています。一方でSF小説家は、エンジニアの使う専門用語から触発されて物語を作っています。人が作る物語と、技術的イノベーションは相互に影響を与えてきたと言えますよね。

尾田:そう考えると科学者やエンジニアは心がないと言ってしまうのは、偏った見方ですよね。もちろん富野さんもそういう文脈で仰ってはいませんでしたが。実際はそうじゃないし、いま草野さんの話を聞いて、そういうステレオタイプな見方をすると誤解を生みかねないのであまり良くないと思いました。

草野:でも、そこは感情も含めて、人によって特性が違うから一律には考えられないとは思います。当然、人によっては共感力にも個人差があるものです。それを含めて脳の多様性として受け入れていきたいですね。

話は変わりますが、息子が『ポケモンGO』にハマり過ぎていたので不安になっていた時期がありました。そんな時にギズモードの記事で「ポケモンを覚えた子どもの脳はすごく記憶容量が増大している」という論文があることを知ったことで、あまりそのことを気にしなくなったんです(笑)。

だから、テクノロジーに関しても学際的にメリットデメリットを考えることでゲームとの向き合い方も変わってきます。そういう意味ではまさにテクノロジーと向き合う時点で、リベラルアーツ的な考え方が必要になってくると思っています。

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草野さんが、現代の「新しい子育て論」をまとめた書籍『親子で知的好奇心を伸ばす ネオ子育て』(CCCメディアハウス)

子どもをクリエイティブに紐づけて教育していくコツ

尾田:さっきも話していたように、子ども自身はデジタルにハマっているんだけど、それを使って自発的に表現するようになるのはまた別の話で。僕にとって、草野さんのように“クリエイティブに紐づけて子どもを教育していくこと”はいま一番ハードルが高いことなんですけど、それを乗り越えるためのアドバイスって何かありますか?

草野:子どもは好きなことを見つけると自分からそのままのめり込むから、とにかくいろいろやらせてみるのがいいですね。そもそも本人が自発的にハマるものを見つけること自体がすごく難しいし、ハマったとしてもそれが変わることもありますし。とはいえ、親が単にやらせてみたいことをやらせるだけではダメなんですけどね。やっぱり親にやれと言われると子どもたちはやる気をなくしてしまうから、興味を持ちそうなものをさりげなく子どもの近くに置いておくのもいいかもしれません。

ロールモデルを見せることは、子どもたちにとっても良い刺激になると思います。例えば、スペースXの代表取締役のグウィン・ショットウェルという女性なんですけど、彼女の年代だと海外であっても女性でエンジニアというのはすごく珍しいんです。彼女は、幼い頃にすごく綺麗なドレスを着た女性エンジニアを見かけたことがきっかけで、自分もエンジニアを目指したそうなんですよ。


テレビよりもYouTubeやNetflixの方が子どもの教育には役立つ?

尾田:今の子どもたちはYouTuberに憧れていますが、YouTube自体を子どもたちに見せることに対してはどう思いますか? 例えば、YouTubeではフグをさばいた時にどの部位を食べちゃいけないかとか、あまりテレビ番組では放送しないような根源的なトピックも多くあって、そういったものは教育にも良いんじゃないかなと思うことがあります。

草野:そうですね。多くのテレビ番組が取り上げるのは芸能人か美味しいものですし、CMも多かったりします。我が家にはテレビがなく、観たいものがあればTVerやオンデマンドでテレビ番組を楽しんでます。

また、YouTubeはコントロール不能範囲で次々と動画がでてくるので、未就学児のうちなどはあまり触れさせたくない部分はあります。うちでは随所随所で何かを調べるためのツールとして使っています。

一方で、Netflixは年齢制限が細かく設定できるし、人種差別や男女のステレオタイプな表現をしないなど倫理的な部分についても注意されて設計されていることもあって、子どもが未就学児の頃はうちでは一番活用していました。特に教育的なコンテンツは面白いうえに質が高いから、見せっぱなしにしたい時などは、安心してわたすことができると思います。

すべての特性を理解しながら、使い分けていきたいですね。そのうち自分で勝手に見るようになると思うので。


(下記リンクの「後編」では、さまざまな偏見や差別を生み出すステレオタイプを打破する必要性などについて話しています)

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