いま大人が持つべきは、子どもの視野を広げる大きな地図:草野絵美さんとネオ子育て対談

  • author Jun Fukunaga
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いま大人が持つべきは、子どもの視野を広げる大きな地図:草野絵美さんとネオ子育て対談
Photo: 小林真梨子

MeToo運動やブラック・ライヴズ・マター運動のほか、SDGsの取り組みなどをきっかけにこれまでの価値観を見直し、より公平で平等な社会を実現する動きが見られるようになりました。

このような動きは、ギズモード・ジャパンを含むテックメディアにも影響を与えており、この業界も現代の価値観に沿ったメディア運営に移行していくことが求められています。

マルチメディア・アーティストであり2児の母親でもある草野絵美さんとギズモード・ジャパン編集長の尾田との対談の後半では、ジェンダーギャップ問題を始めとした、さまざまな偏見や差別を生み出すステレオタイプを打破する必要性などについてトーク。ポリティカル・コレクトネスによって旧来の価値観が見直される中、それにあわせて私たちそれぞれが価値観を時代にあったものへとアップデートしていくことの意味を探りました。

(テクノロジーが人々の価値観を大きく変化させる時代の子育てについて、意見を交換した前編はこちら

テクノロジーが価値観を変える時代の子育てに必要なこと :草野絵美さんとネオ子育て対談

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https://www.gizmodo.jp/2022/07/kusano-1.html

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草野絵美:株式会社Fictionera代表取締役。東京藝術大学非常勤講師、歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」歌唱担当・主宰。音楽を中心に、アーティストとして未来のテクノロジーに対して問いを立てるインスタレーション等を手がける。

2人の子どもを持ち、数々のメディアで子育てに関するエッセイ執筆やインタビューを受ける。子育てのモットーは「親子で知的好奇心を伸ばす」こと。子育てをプロジェクト化し、親子で一緒に高めあうことを目指している。

2021年、当時8歳の長男のNFTアートプロジェクト「Zombie Zoo」が世界中のアートコレクターたちの目にとまり、最高4ETH(160万円相当)で取引される。息子のコレクションをきっかけに、Web3の世界に飛び込み、マネジメント、ロードマップ策定、IP展開などあらゆる戦略等を行う。

2022年には、アーティスト大平彩華とタッグを組みNFT作品「Shinsei Galverse」プロジェクトもスタートさせる。

テックカルチャー界隈に根強く残るミソジニー的な価値観

尾田:今、ギズモードのようなテックメディアの読者は総じて女性よりも男性が多く、取り上げるクリエイターも男性の方が多くなりがちです。この分野では、男女比率的にまだまだ男性が多くを占めていることもあって、広くテックカルチャー全体で見ても、男性的な価値観がまだ根強く残っている気がするんですよね。テクノロジーに詳しいのは男性というような。

もちろん、偏った見方は以前よりも薄れてきてはいますが、世界的にみてもテック企業が他の分野より女性が働きやすい職場かと言われると疑問に思うことがあって。こういったジェンダーギャップの問題を解決するにはどうしていくべきだと思いますか?

草野:これは私も含めてなんですけど、何事においても自分が差別をしてしまう可能性があるということを知っておく必要があると思います。自分では「偏見がない」と思い込んでいても、どこかで「女性だからこういう細かい作業がいいよね」とか「ハーフだしかわいいね」とか、そういうことを日常的に口にしてしまっている可能性は誰にでもあります。

ネット上でも、女性で目立つ人は叩かれやすいから、そういうことはなくなってほしいなと思いますね。フェミニストであることは本来「全ての性が平等な権利を持つべきだと考える人」であり、特に欧米圏をではわりと多数派の思想になってきています。日本でも数年前に比べて定着はしてきましたが、今だに、「フェミニスト=女性上位を主張する過激な人たち」と考える人がいたり、ツイッター上では、ツイフェミだとか揶揄する人も見受けられます。もちろん、どんな主張にも過激な人とそうでない人がいるから、その主張の全てが正しい、もしくは間違っているということはないと思いますが。

ただ、こうした差別や偏見に関する問題で過激な主張をする人が出てくるということは、そういう人の中におそらくこれまでに辛い思いをしてきた経験を持つ人もいるはずなんです。だから、子どもにはその可能性を考えずに短絡的にその人たちに対して、苦手意識を持つのではなく、もっと想像力を働かせる必要があるということを教えたいと思っています。

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今の価値観にあわせて自分の価値観をアップデートしていく

尾田:草野さんのこれまでのキャリアの中でも、女性よりも男性上位の雰囲気が強かったでしょうか?

草野:そうですね。最近のNFTの分野にしても女性比率は極端に少ないと言われています。逆にファッション業界だと女性が多いんですけど、テック業界は男性が多く、私が以前勤めていた広告業界のある会社でも、部長職以上は男性が9割を占めていました。同級生が勤めていた別の広告会社では、男性は高学歴、女性は学歴よりもミスコン勝者の肩書きを評価されていたところもありました。

5〜6年前の話なので、さすがに女性にお茶汲みだけさせるようなことはなかったのですが、当時でも会社の飲み会では若い女性を取引先の男性の周りに集めて座らせたりとか、おかしなことはまだありました。

そういったことに対しては少しずつツッコミを入れていくしかないんですよね。例えば、年配の方が今の価値観に合っていない発言をしていたら「その考え方はもう古いし、やめた方がいいですよ」と言うべきなんですよ。

もちろん、年配の方でも過去の自分のステレオタイプで差別的な言動を省みて、価値観をアップデートしている人もたくさんいますし、逆に若い人でも古い価値観を掘り起こして変な方向に進んでしまっている人もいます。だから一概に年配の方だけが悪いとは言えないし、ちゃんとアップデートしていく姿勢が非常に重要ですよね。

ただ、今はやはり女性の比率を上げることに対して、意識的に取り組むべきフェーズだと思います。簡単ではないですけど、そうしないと職場の環境は変わらないから。

尾田:ジェンダーギャップの問題に関しては、「女性をもっと優遇しろ」ということだと勘違いして反発する人もいますよね。でも、今優遇されていない人はそもそも非常に不利な立場にいるわけだから、厚遇しないと公平な状態にはならないですよね。

例えば、ブラック・ライブズ・マター運動の時に「黒人の命だけじゃなくて白人や他の人種の命も大事なんだよ(ALL LIVES MATTER)」と言っている白人に対し、ビリー・アイリッシュが「これは黒人が不当な扱いを受けてることが問題なのに、それに対して人類皆平和とか言い出すのは不公平なんだよ」と怒っていましたが、このこともそれと同じだと思うんです。

一方で、いわゆる女性のために電子機器の配線をしてくれる“配線おじさん”のようなネタがあったり、日本独自の性差別的な認識もある。それも、裏を返すと女性がそういったことを苦手としているというステレオタイプなイメージや教育の土壌があるということの表れなのかもしれませんけど。

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尾田和実:ギズモード・ジャパン編集長

ステレオタイプを打破していく

草野:私がやっていることに関して「女性なのにすごい」と言われたり、子どもに対して「女の子なのに算数得意なんだね」と言ってるのを耳にしたり、言っている側は褒めてるつもりでも差別してることってたくさんありますよね。でも、先程のお茶くみの話のように、本人の能力や趣味嗜好に関係なくステレオタイプなイメージだけで何かをさせられることに対しては怖さを感じます。それを壊していくことが、私の使命だと考えています。

この子育て本はピンクを基調としたものにしたくなかったし、内容に関しても“ママのために”ではなく“親のために”という形で執筆しました。こういうことも男女格差をなくしていく上ではすごく重要だと思うので、そこのステレオタイプに囚われずに読んでほしいですね。

でも、男の子を育てながら感じるのは、やっぱりまだ科学や歴史に関連するようなコンテンツは男の子向けの絵のタッチが多い気がしますし、お菓子や裁縫などのおもちゃは全部女の子向けになってしまってますよね。そこを意識しているおもちゃが増えていくといいなと思います。


子どもと一緒に学ぶことで大人も知的好奇心を持つことができる

尾田:“子育て”と言いつつ、むしろ子どもに育てられているような感じもありますよね。

草野子どもが生まれてからの方が、断然、知的好奇心が上がりましたね。子育てをしていると興味がないことにも興味を持たざるを得ないし、今まで触れてこなかったものにも触れるんですよ。

例えば、歴史を勉強するにしても自分が子どもの頃に読んでいた漫画などとは違って、歴史系YouTuberの動画はすごく面白く解説されていますし、知識が身に付く楽しいアプリもありますし、今は子どもと一緒に学べるコンテンツがたくさんありますよね。一度自分もまっさらな状態で、子どもと一緒に学びますという姿勢でいることが子育てを楽しむコツかなと。

尾田:あとリベラルアーツの考え方を子育てに応用していくことにも触れられていますが、それもアリかもしれないと思いました。ただ日本だとリベラルアーツはあまり認識されていないから、誤解も多いかもしれませんが…。

草野:どちらかと言えば、「何でもちょっとずつ学ぶやつでしょ」みたいに思われる可能性は確かにあります。でも、子育てをしているとしょっちゅう「これも知的好奇心に繋がるな」と思いますし、すべてが教育コンテンツに見えてきます。私は子育てで一番育みたいのは知的好奇心だと思っていますし、知識は身につけても忘れてしまうからあんまり意味がないんですよね。だから何かを探求したいと思えるかどうかが一番重要なんです。

子どもに英語を学ばせたいのであれば、英語を嫌いにならない教育をする。あと、それができることで広がる世界を見せることも重要です。その先が楽しいことをちゃんと提示しないと子どもは絶対にハマらないし、マニュアル通りにいかないことも子育ての面白さだと思っています。

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草野さんが、現代の「新しい子育て論」をまとめた書籍『親子で知的好奇心を伸ばす ネオ子育て』(CCCメディアハウス)

子どもの視野を広げることが大人の役目

尾田:人種に対する偏見に関しても、今は日本人以外でも日本で生まれ育った子どもたちも多いし、生まれた時からそういう友人がいる環境で育つ子どもも増えていますよね。子どもに偏見を持たせないためにも、大人がしっかりと価値観のアップデートを意識しながらリテラシーを高めていくことも大切だと思います。

草野:もしかすると今後、急に子どもが「女の子はピンクだよね」とか、ミックスの子どもを見て「外国人だ」とか言い出すようになるかもしれません。でも、大人はそれに驚かないでください。

本当に子どもはピュアだから、パターン認識を覚え始めた4歳ぐらいの時って、みんながその道を通るんですよ。だから、その時に大人がちゃんと優しく寄り添うことがすごく重要なんです。そもそも子どもはそれよりも小さい時はそんなことに気がついていないし、親が気をつけていたとしても何かの拍子で刷り込まれていたりもします。だから、親としてはステレオタイプな子どもの発言に対して、「こんな広い地図があるんだよ」と準備しておく必要があると思います。

尾田:確かにそういう心構えじゃないと、ショックを受けることになるかもしれませんね。

草野:「何でそんなこと言うんだ!」と驚いてもしょうがないし、それよりも子どもの視野を広げることが大人の役目ですよね。

人種やLGBTQ+に対する偏見などを子どもが持たないようにするためにも、身近にロールモデルがいれば見せていく。もしいなければ、そういったニュースや映画を見せたりしながら、とにかく世の中には多様な人がいて、いろいろな考えがあることを理解させていく必要があると思います。そして、自分が発する言葉の中にも偏見が入っている可能性があることを理解させる必要があると思います。

尾田:人は自分が理解できないものに対して、想像力を働かせて憶測で判断してしまいがちですよね。だけど、わからないことに甘んじてしまうと、それを理由に他人をコントロールしようとしたり、恐怖感で威圧しようしてしまうようになるかもしれません。これは小学生にすれば難しいかもしれませんが、親としてはいずれ理解してほしいことですね。そうしないといずれ自分が差別されたり、抑圧される側に回ってしまうと思うので。


表現の自由の線引きの難しさ

草野:女性に対するハラスメントにしても、未だに昔の価値観からアップデートできていないままの子ども向けアニメもありますよね。そういったものは昔からずっと続いている歴史的なものだから、確かに変えづらいところはありますよね。でも、そこは「昔はこんな時代だったけど、今では考えられないよね」と言えばいいと思うんです。

尾田:若い世代からは、そういった認識がアップデートされたエンタメコンテンツも生まれていることを考えると、やっぱりこれは上の世代の認識に問題があるのかもしれませんね。

草野:もちろん世の中には、アーティストのフェティッシュな感性から生まれているすばらしい作品も多く存在します。表現の自由とはわけて考えるべきですが、公共性、放送倫理などの問題も、さまざまな世代・立場の人と線引きを決めていくのってすごく難しいですよね。

しかし、対象とされるものが、公共的なもの、子どもの目にふれるものである限り、時代にあった表現を極めていくべきたと思います。そこからきっと新たな多様な価値観が生まれたり、勇気づけられる人もいると思います。クリエイター側も日々アップデートして作っていくしかないですね。