ブタの皮膚を使ったインプラントで、20人中19人の視力が回復

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  • author Ed Cara - Gizmodo US
  • [原文]
  • Kenji P. Miyajima
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ブタの皮膚を使ったインプラントで、20人中19人の視力が回復
Image: Thor Balkhed / Linköping University

見えなかったものが見えるようになったときって、どんな気持ちになるんだろう?

ブタの皮膚から抽出したコラーゲンを使ってつくった生物工学的インプラントを用いて、角膜損傷によって視力を失った人たちを救済する新たな方法が見つかりました。このインプラントを用いた小規模臨床試験の結果によると、法的に全盲とされる人たちも含め、最長で2年間にわたって視力の回復が確認されたそうです。順調にいくと、将来的に角膜の代わりになる日がくるかもしれません。

画期的。ブタの皮膚からつくった人工角膜

眼球の外側で目の他の部分を保護する役割も果たす透明な角膜は、光の焦点を合わせて視力を維持します。軽い擦り傷程度なら簡単に回復しますが、重度の傷や特定の病気などの場合は角膜に後遺症が残って、視力に支障をきたすこともあります。世界保健機関(WHO)によると、世界で約400万人が角膜損傷による視力障害に悩まされているそうです。また、角膜損傷は失明の原因のひとつにもなっています。

角膜に深刻な傷を負った場合、本当に有効な治療法は、健康な角膜の移植といわれています。しかし、他の多くの臓器と同じく、人間の角膜もドナーからの提供後すぐに使用しなければいけないため、特に医療支援体制が整いにくい貧しい国では不足しがちです。そういうこともあって、研究者は人間の角膜に代わるものを見つけようとしてきました。そして今回、インプラント開発のためにスウェーデンのリンショーピング大学の研究者がLinkoCare Life Sciences ABを設立したとのこと。

Nature Biotechnologyに発表された研究によると、インドとイランで円すい角膜の症状(角膜の中央が徐々に薄くなって角膜が円すい状に突き出る形になってしまう疾患)を持つ患者20人に対してインプラントを移植したところ、19人の視力が大幅に改善全盲とされていた14人全員が全盲ではなくなったそうです。矯正治療が必要だった患者も、問題なくコンタクトレンズを使用できるようになりました。移植後2年を経過しても視力は安定しており、後遺症などの問題も報告されていません

研究を執筆したリンショーピング大学生体工学部教授で、LinkoCareのCEOを務めるMehrdad Rafat氏は、声明の中で次のように述べました。

今回の結果は、人間に使用するための基準をすべて満たすインプラントの開発が可能であることを示しています。この人工角膜は大量生産が可能で、保存期間も2年と長いため、より多くの視覚障害者を支援できるようになります。

拒絶反応もなく、丈夫で長持ち

現時点で実用化されている人工角膜もあり、また、今回の臨床試験と同様の治療法や研究も行なわれているものの、リンショーピング大学の研究チームが開発したインプラントにはより優れた点があるそうです。ひとつには、これまでの治療法だと、提供された角膜によって拒絶反応のリスクの大きさが決まりましたが、今回開発されたインプラントは、ブタの皮膚からつくったコラーゲンを使っているため生体物質を含んでおらず、拒絶反応を起こすリスクがはるかに小さいことが挙げられます。もうひとつは、角膜と同じコラーゲンを主成分とするこのインプラントは薄くても耐久性に優れているので長持ちするそうです。通常、角膜移植後は拒絶反応を抑えるために免疫抑制点眼薬を1年以上使用する必要があるのに対し、今回の研究では移植後8週間しか点眼を行なわなかったそうですが、拒絶反応の兆候は報告されていません。

また、このインプラントの移植で用いられた侵襲性の低い術式は元の角膜を切除する必要がないため、合併症のリスクも軽減でき、医療用リソースが乏しい地域でも広く普及する可能性があるそうです。さらに、このインプラントの素材は最短でも8年間は安定した状態を保てるという研究結果もあるとのこと。

手頃な費用でだれでも容易に入手可能

Rafat氏は、研究チームが開発した新たな技術の可能性についてこうも述べています。

私たちは、今回の発明が富裕層だけでなく、すべての人々に手頃な費用で普及させるために最大限の努力を行なってきました。そのかいもあって、この技術は世界中どこでもアクセス可能になりました。

もちろん、今回の研究はとても小さな規模で行なわれたものなので、いろんな国でこの治療法が承認されるためにはもっと多くの成功例が必要になると思われます。研究チームは、そのために大規模な臨床試験を計画中なのだとか。また、さらにはこの治療法が他の角膜関連の疾患にも有効かどうかについても、研究を進める可能性があるそうです。

見えなくなっていたものがまた見えるようになるなんて、患者さんにとっては、まさに世界が変わる瞬間だと思います。たくさんの人が、見たいものや見たい人を見られるようになるといいですね。