怪しく光る雲の正体は…ロケット雲? 夜光雲と打ち上げに有意な関連性

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怪しく光る雲の正体は…ロケット雲? 夜光雲と打ち上げに有意な関連性
Photo: NASA / Dave Hughes|地球でもっとも高い雲、夜光雲。まるで海のよう(カナダ・アルバータ州エドモントン)

怪しく恐ろしくも美しい雲、夜光雲。

これまで夜光雲が出なかった中緯度帯にまで夜光雲がたびたび出るようになり、米調査チームがロケット打ち上げとの関連を調べてみたところ、午前の打ち上げ回数と中緯度帯の夜光雲発生頻度が驚くほど一致! 結果が学術誌「Earth, Planets and Space (EPS)」に公開されました。

夜光雲って何?

夜光雲(noctilucent)は上空80kmの中間層に現れる、地球大気圏でもっとも高い雲です。主に極地に発生することから極域中間層雲(polar mesospheric cloud)とも呼ばれます。

その正体は、結晶化した水蒸気の塊。あまりにも高高度なので、とっぷり日が暮れた後とか、朝日が昇る前でも、太陽の光をきらきら弾いてこの世のものならぬ文様を空一面に描きます。晴れた日には、暗い雲の裂け目に銀色の光が踊り、波間を漂う泡のよう。

調査班のコロラド大学ボルダー校Cora Randall大気科学教授に動画で取材したらこう語ってくれました。

出るのは日没後や日の出前の30分から1時間半くらいですね。非常に薄い雲なので、太陽の光が遠くから当たって光を放ち、観測者の立ってる場所や暗闇のときにしか見ることはできません。

なるほど。

極地以外でも夜光雲が出る異常性

発射台を出たロケットは水蒸気を中間圏に直接まき散らします。それが雲の発達を促すのではないかと調査班は考えました。現にフロリダ州ケープカナベラル基地のケネディ宇宙センターで打ち上げが行なわれると、そこから何千kmも離れた場所で、何日も経ってから夜光雲が出たりもしているんだそうです

通常であれば、夜光雲は極地で夏場に発生する雲ですし、観測シーズンも北極地域が5月半ばから8月、南極地域は11月半ばから2月とだいたい決まっています。夏になると極地は日が沈まない白夜になるので観測者の足元が暗くなることもないし、夜光雲の出る幕もなし、というわけです。

ところがここ何十年かは極地のみならず中緯度地域でも夜光雲が頻発。南はカリフォルニアやコロラド辺りでも出ちゃってるんですね。しかも夜光雲そのものも「どんどん明るさを増し、発生頻度も上がってきている」のだといい、「ずっとここ50年くらいはこの傾向が続いている」とRandall教授。学会では気象変動や太陽周期原因説もあるとのことです。

午前のロケット発射とグラフが一致

今回、調査班は極中間圏雲を監視するNASAの衛星「AIM(Aeronomy of Ice in the Mesosphere)」が収集した2007~2021年の雲のデータを集められるだけ集めて、ノルウェーのベルゲンからスコットランドのエディンバラにいたる北緯56~60度の狭い範囲を集中的に調べてみました。この緯度を選んだのは、中緯度でもっとも安定したデータが得られるからです。

ところが、雲の発生には特にパターンらしいパターンは観測されず、むしろ中緯度帯の夜光雲は出まくる時期があると思えば、ぱったり出なくなる時期もあって、激しいジグザグ曲線を描いていることがわかったんです。

ただこの一見デタラメなグラフを午前のロケット打ち上げデータに重ねてみたら(下のグラフです)、妙に足並みが一致してるんですね。

20220802rocket_cloud_correlation
緑は各年のロケット発射回数、オレンジは中間層夜光雲発生件数。上は全発射、下は北緯60度以南の午前(11PM~11AM)の発射のみに絞ったグラフ。下のグラフには統計的に有意な関連性が見られる
Graphic: NASA/Michael Stevens (Naval Research Laboratory) et al.

なぜ午前?

調査では、午前のほうが中間圏の粒子が大気の風に乗って極方面にスピーディーに移動することもわかっています。これも夜光雲とロケットの関連性を裏付ける結果と言えそうです。要は、ロケット発射で噴射された水蒸気が北風に吸い上げられていって上空の冷たい空気にさらされて夜光雲が発達する、というメカニズム。そう考えるといろいろ説明がつくのです。

スペースシャトル打ち上げと夜光雲を関連付けたケーススタディは過去にも例がありましたが、もっと小型のロケットでも影響が出ることを示したのはこの論文が初めてです。共同執筆者の米国海軍調査研究所宇宙物理学者のMichael Stevens氏もこの結果には結構びっくりしたようで、こう語っています。

調査対象の輸送ロケットに比べたら、もちろんシャトルのほうが巨大だ。それだけに、こんな小さなロケットでも(雲発生の年次)変化に影響をおよぼすことは驚きだし、影響を与えるどころか発生を誘発している面もあるのには驚きを禁じえない。これは予想もしていなかった結果だ。(Stevens氏)

ほかの飛行物体の影響もあるだろうし、特に気象変動の影響については先のRandall教授も「人為的な営みが雲に与える影響は疑いの余地もないことです。問題はどの程度の影響かでしょう」 と言ってました。

ちなみに火山噴火のせいだとする説は100年以上前からある古いものです。観測史上初めて夜光雲が確認されたのが1885年で、インドネシアのクラカトアの大噴火(1883年)のわずか2年後。噴火でこんな雲が出るようになった、そうに違いない、というわけです。面白いですね。

ロケット発射の環境破壊規模については米政府も関心を寄せています。夜光雲はきれいなだけで、あまり悪影響の話もまだ聞かないのですが、これも人間が変えてしまった自然現象と言えそうです。

中間圏とそこに現れる雲は、微妙な変化にも超敏感に反応します。ロケットの影響をよく調べれば、その知見を活かして温室効果ガスなどの大気の変化もさらに解明が進むだろうと、Randall教授とStevens氏は期待を寄せていますよ。

夜光雲にはもっと単純に謎解きの魅力もあり、「20世紀から21世紀にかけて発生が顕著になったことで多くの科学者が多大な関心を寄せている」とStevens氏。長年の謎がまたひとつ解けたかたちです。次回、夕暮れ後や夜明け前に空を見上げて、底光りする海のような波紋が広がっていたら、ロケット雲を疑ってみるのもありかもしれません。