見たこと無い楽器が、どんどん生まれる!
音楽は、聞くのも楽しいし演奏するのも楽しい。でも、いざ楽器を演奏するとなるといくらかの練習は必要ですよね。ギターならコードだったり、ピアノなら楽譜を読んだり。
楽器は演奏してみたいけど、練習が大変そう。ここのハードルってやっぱり高いんですけど、そもそも楽器の楽しさって「音が鳴るとなんか楽しい」っていう、すごく原始的な部分へのワクワク感にあると思うんです。手拍子だけでも楽しいでしょ?

そういったプリミティブな音楽の面白さを体験できるイベントが、大阪で開催された「ゆる楽器ハッカソン2022 IN大阪」。ハッカソンとは、エンジニアなどが即席のチームを組んで短期間で集中的に成果物を作るイベントのこと。
ちなみに「ゆる楽器」とは、世界ゆるミュージック協会が企画する、誰もが簡単に演奏できる楽器のこと。その定義はこの四か条です。
【MUST】
誰もがすぐに演奏できること
誰とでもすぐに合奏できること
【BETTER】
練習するともっとうまくなっていくこと
音階の制御ができること
演奏性がありつつ、かつ誰でもすぐに(すぐにってのがキモ)使える楽器。こうしたゆる楽器をわずか2日で作るイベントが、今回の「ゆる楽器ハッカソン2022 IN大阪」になります。え、たった2日で楽器が作れちゃうの!?

制作の助けとなるのが、会場に用意されたソニーのロボットトイ製品「toio™」「MESH™」「KOOV™」、それからマイコンボードの「SPRESENSE™」。これらのガジェットには加速度センサーや人感センサーが搭載されてるものもあり、例えば振ると音が出る、センサーが人の動きを読み取るとドレミが鳴るなどの動作を実現できます。組み合わせ次第では、楽器のような挙動も作れるわけです。

「SPRESENSE」はこういうマイコンボード。ソニーセミコンダクターソリューションズ製らしく、192kHz/24bit音質のClass-Dのデジタルアンプを搭載しています。低電力なのに高音質! まさに音楽ガジェットにピッタリのマイコンじゃあないの。
どんな作品を作ってるの? それぞれのチームの様子を拝見
今回の「ゆる楽器ハッカソン2022 IN大阪」は、土日の2日開催。土曜日のうちにチームを結成し、2日という制約の中でどれだけのモノを作り上げるか、実現可能性、誰がどんな部分を担当するかを話し合います。中には初対面の人たちによるチームもありました。
誰でも使ったことがある傘が楽器に!

こちらのチーム「ふーぎー」は、傘を改造して音が鳴るようにしていました。どんなゆる楽器を作ろうとしているのか、お話を聞いてみました。
傾けると和音が鳴る傘を作っています。どの方向に傾けるかで鳴る和音が変わり、傾きの角度で音量も変わります。傘をモチーフに選んだのは、大きいので見てるお客さんにも動きがわかりやすいし、使う人も傘をさす動きのまま演奏できるからです。センシングには「SPRESENSE」を使っていて、傘の持ち手の部分に取り付けています。

傘が楽器になるとは意外すぎる。このチームは前日に知り合った初対面のチームでありながら、デザイン担当やコーディング担当など、役割分担がしっかりしてるのが印象的でした。傘って見た目も可愛いし、ビジュアルからしてゆる楽器っぽいですね〜。
掃除道具でバンド結成

こちらはチーム「京都精華大学」。同校の先生と生徒の皆さんで参加して、掃除道具を使ったバンド「お掃除道具バンド クリーン」を結成しました。「MESH」のセンサーでギターの音を鳴らしたり、「toio」でピアノのような演奏を実現したりしています。

バンドに欠かせないドラムは、紙コップで作成。コップに貼られたアルミホイルに触れるだけでドラムの音がします。慣れてくればビートマシンっぽい使い方もできそうですね。
大所帯のチームなので、人数を活かせる楽器が良いと話し合いました。ハッカソンが始まったら、生徒がそれぞれ「ゆる楽器」をテーマに楽器を作り始めて、自然とバンド演奏になりました。
と、先生。自主性がハンパないぜ。
たこ焼きづくりでメロディーを奏でる

大阪らしく、たこ焼き風の楽器を作っているのがチーム「たこパ」。一見するとたこ焼きを作っているように見えますが…。

なんと、その中には「toio」がそのまま入っています! たこ焼きはスポンジで再現したそうですが、これかなりたこ焼きっぽい見た目なんですよ。見た目の意外性はピカイチ。
タコの代わりにセンサーを入れることで、たこ焼きをひっくり返す動きに反応して音が鳴る楽器を作っています。「toio」焼きですね(笑)。たこ焼きは大阪らしいモチーフでもあるし、たこパのようにみんなでテーブルを囲んで演奏できれば楽しめるかなと思っています。
「toio」そのものをセンサーとして使う判断も面白いし、そもそもたこ焼きを楽器にするだなんて、すごい発想だなぁ。これ、大阪駅とかにあったら間違いなくみんな触るでしょ。
カスタネットの難しい演奏技術をテクノロジーでカバー

楽器の演奏方法に注目したのは、チーム「ゆるフラメンコ」。加速度センサーを取り付けた「SPRESENSE」を手で動かして、カスタネットの音が鳴る仕組みを作りました。モチーフになっているのは、チーム名にもあるフラメンコ。
カスタネットはシンプルな楽器ですが、「カカカン」と連続した音を鳴らすロールなど、テクニックが要求される奏法もあります。そこを「SPRESENSE」の動かし方によって、単発とロールの2種類が鳴るよう設計したそう。また、「SPRESENSE」を足に付けて、フラメンコの足踏みの動作が音に繋がるようにもなっています。

こうして手首をひねるとロールが、ひねらず手首を前に倒すと単発の音が鳴っていました。これなら動かし方を変えるだけでプロっぽい演奏ができちゃいますね。テクノロジーでテクニックをカバーしていくタイプのゆる楽器です。
世界共通のじゃんけんが楽器に!

一方、こちらのチーム「TS」は、最先端の技術である画像認識AIを応用。カメラが指の本数を認識し、その本数に応じた音が鳴る仕組みを考案しました。じゃんけんのグー・チョキ・パーに応じてドレミが鳴るようにしてあり、手の形を変えると音が変わります。シンプルなアイディアですが、カメラに向けて手を出すだけで音が鳴る体験は、ハマっちゃう面白さがありました。

じゃんけんはほぼ世界共通の動きですし、老若男女が楽しめるモチーフかなと思いこのアイディアになりました。指の本数はAIに機械学習させています。本当はSPRESENSEで動かそうとしたんですが、開発時間が足りずに間に合わなかったので、今回はPCを使って発表する予定です。
ううむ、これもまたハッカソンらしい終着点よ。
各チームによる発表、最後はみんなで大合奏!
開発は16時30分でストップ。どのチームもギリギリまで作業をしていて、最後まで作品の精度を上げようと集中していました。この後はそれぞれのチームで作ったゆる楽器による演奏を披露し、審査員がそれをチェック。そして表彰式へと進みます。
優秀チームに選ばれたのは、個人出場のShotaro's Factory(出場者中最年少の高校生!)の「ニャクニャク」と、「SPRESENSE」でカスタネットを作った「ゆるフラメンコ」。

「ニャクニャク」は、大阪万博のマスコットキャラクターであるミャクミャクをモチーフにした生き物風(?)の楽器。肉球の中にセンサーが内蔵されていて、押すと音が鳴ります。音の源となる波形生成もプログラミングで作成していて、本格的なシンセサイザーっぽい音がしてましたよ。

「ゆるフラメンコ」は、パフォーマンスの完成度がとても高かった! 音楽に合わせてダンスをしながらカスタネットの音を鳴らしており、振り付けがそのまま音楽につながっていました。演奏とダンスの一体化だなぁ。

そして、最優秀チームは画像認識じゃんけんを考案したチームTS!

一見するとじゃんけんのグーを出しているだけに見えますが、真剣に演奏中です。

審査員が「これなら手話で音楽を演奏することもできる」とコメントしていて、確かにそれってイノベーションだなぁ。身体性と音が伴うのが楽器の面白いところですけど、テクノロジーを使えば身体的な繋がりは色んなカタチになれるのかも。それって、なんだか未来的です。
#ゆるミュージック 最後はみんなで合奏! pic.twitter.com/nEaKQBSEry
— ばんのー (@about40man) July 24, 2022
最後は、ゆる楽器の楽しさを世界に発信しているバンド、ゆるミュージックほぼオールスターズと一緒に、参加者全員で大阪・関西万博の応援ソング『満ちる愛・繋ぐ夢』を大合奏。自分の作った楽器で皆と交流できるって、最高に楽しいと思います。演奏はコミュニケーションでもありますからね。
また、#ゆるミュージックではそれぞれのチームの演奏や開発している様子をチェックできます。楽器の音や演奏のやり方なんかは映像で見たほうがわかりやすいので、ぜひこちらのハッシュタグを覗いてみてください。カンフーだったり、プラレールだったり、紹介できていないけど面白い楽器がありましたよ。
ものづくりって面白い、楽器って面白い
2日という限られた時間で、テーマに沿った制作物を完成させる。これだけでも大変なことだと思います。様々なアイディアや試行錯誤、そしてそれらをサポートするガジェットの存在が、この世に新たな楽器を誕生させたんですよね。そう思うと、参加していない身ながら胸が熱くなるモノがありました。
例えば「toio」ひとつとっても、色んな使い方が見受けられます。自走させたり、センサーにしたり、傾きを検知したり。「こういうことできないかな、こういうツールはないかな」といった、その一連のひらめきが人の数だけあるってことですよね。僕はソフトウェアやコーディングに関しては門外漢なので、アイディアをカタチにできる人はほんとに尊敬します。すごい!

「ゆる楽器ハッカソン2022 IN大阪」は、2025年日本国際博覧会協会、すなわち大阪・関西万博の開催1,000日前を祝したイベント「TEAM EXPO FES」内の共創チャレンジ企画として実施されました。最優秀賞のチームTSは「万博にちなんで世界中のだれでも楽しめる楽器」として機械学習じゃんけんを開発したと述べていましたが、その先見性も評価されたのかもしれませんね。

開発の面白さや楽器がもつ魅力を改めて感じられた、今回の「ゆる楽器ハッカソン2022 IN大阪」。およそ1,000日後の大阪・関西万博に向けて、またひとつイノベーションの種が撒かれました。演奏によって誰もが交流できる未来、それはきっと賑やかで楽しいものになるはずですから。
Photo: ヤマダユウス型, ささきたかし
Source: ゆる楽器ハッカソン2022 IN大阪