気候変動がなければ、ハリケーン「ハービー」の被害は半分で済んでいた可能性

  • author Angely Mercado - Earther Gizmodo US
  • [原文]
  • Kenji P. Miyajima
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気候変動がなければ、ハリケーン「ハービー」の被害は半分で済んでいた可能性
2017年8月29日のテキサス州ヒューストン。ハリケーン「ハービー」による洪水の空撮映像
Image: AMFPhotography / Shutterstock.com

もう5年。まだ5年。あと何年経ったら復興は終わるんでしょうか。

2017年8月末。カテゴリー4まで発達してテキサス州に上陸したハリケーン「ハービー」は、その後熱帯低気圧に勢力(風速)が弱まってから、4日以上テキサス州ヒューストン都市圏に停滞して記録的な雨を降らせ、少なくとも70人が死亡。推定経済損失は1,250億ドル(当時の為替レートで約14兆円)にのぼりました。

気候変動がなければ被害は半分で済んでいた可能性

Nature Connectionsに掲載された研究結果によると、ハリケーン「ハービー」の影響を最も受けたテキサス州の最大都市ヒューストンがあるハリス郡では、気候変動がなければ洪水被害に遭った住宅のほぼ半数が浸水しなかった可能性があるそうです。また、ハービーの被害が特定層に偏っていたことも明らかになりました。

ルイジアナ州立大学の研究チームは、ハリケーン「ハービー」と気候変動の関連性についての発表済み論文を分析しました。分析の対象にしたのは、コンピューターモデルを用いて特定の気象現象にどれくらい気候変動が寄与していたかを調べる手法である「アトリビューション分析」を用いた論文です。アトリビューション分析では、モデルで気候変動がある世界とない世界をひたすら繰り返しシミュレーションして、気候変動がない世界だとどれくらいの頻度でハービーレベルのハリケーンが発生して、どれくらいの雨を降らせて、どれくらいの被害が出るかなどを比較します。それらの研究結果を分析したところ、気候変動の影響を受けていなければ、ヒューストン都市圏で約5万戸の家屋が被害を避けられた可能性が高いと判明したとのこと。アメリカ史上最高を記録したハービーの降雨量(1,500mm以上を記録した場所もあった)は、気候変動がない世界よりも最大で38%も多かったそうです。

低所得の有色人種に偏った影響

そして研究チームは、さらに世帯収入と人種についても、気候変動による影響の大きさを調べました。その結果、ハリケーン発生時から通過後にかけて、負の社会的影響がラテン系アメリカ人地域社会に著しく偏っていたことが明らかになりました。気候変動の影響が見られた家屋への洪水被害のうち、ラテン系世帯が48%を占めたのに対して、白人世帯は33%に留まりました。

ルイジアナ州立大学社会学教授で研究論文の筆頭執筆者を務めたKevin Smiley氏は、ヒューストンでは、石油化学企業の近隣を流れる水路に沿って開発された地域に、低所得の有色人種コミュニティーの多くが作られたため、洪水被害の影響に偏りが出たと指摘しています。今後、時間の経過とともに、さらなる不平等の拡大も起こり得るそうです。

Smiley氏は洪水被害の偏りについてこう述べました。

中間層の富は、主に不動産の価値で決まります。自宅が浸水した場合、そこから立て直すのは非常に困難なのに加えて、洪水被害は平等ではありません。人種間の経済的不平等など、より大きな社会問題とつながっています。

復興・再開発にも差別が

Smiley氏は、ハリケーン「ハービー」のような災害の余波は長くなると言い、最終的には、ジェントリフィケーション(低所得層や中間層の被災地域を再開発する際に富裕層が流入することで、被災前の住民を追い出してしまう現象)などによって、すでに社会経済的に脆弱な地域住民をさらに追いやってしまう可能性があると考えているそうです。2005年にハリケーン「カトリーナ」がルイジアナ州のニューオーリンズ周辺に甚大な被害をもたらした後、被害から立ち直れなかった多くの黒人家族が、何世代にもわたって住み続けてきた街からはじき出されました。そういう地域はジェントリフィケーションが進みやすく、そこから離れた貧しい有色人種が戻るのはほとんど無理です。

昨年ルイジアナ州のメキシコ湾沿岸地域に上陸したハリケーン「アイダ」の影響を受けた先住民コミュニティーは、被害に対して白人や富裕層と同じような配慮や援助を得られなかったことで、見捨てられたように感じているそうです。その後低気圧になったアイダの残骸はニューヨーク市にたどり着きましたが、死者の多くは浸水した地下のアパートに閉じこめられた移民でした。

弱者の被害を最小限に抑えてより安定した生活を

Smiley氏は、今回の研究をきっかけに、異常気象のリアルタイムの影響を分析しようとする取り組みが活発になって、アメリカ国内の有色人種コミュニティーやその他の脆弱な地域に長期的な安定をもたらすことを望んでいるそうです。

そのような取り組みについて、Smiley氏はこう述べています。

この手法は、他の異常気象にも、他の都市にも応用できます。社会科学者は、人々が変化する環境に対してどのように行動し、どのように適応していくのかを見極めるために、本当に難しい問題に取り組み始めたところなのではないでしょうか。


Smiley氏の願い通りに研究が進めば、気象災害に対して脆弱な人々や地域の被害を最小限に抑えられるようになるのと同時に、気候変動による損失と損害が明確になることで、優先的に救済する被災者を決める判断材料にもなると思います。将来的には、洪水が頻繁に起こりやすい地域や、汚染施設と水路の周辺に住む人々の移住を検討する際にも役立つのではないでしょうか。

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