AbletonとGAKUが取り組む探究教育。音楽制作から考えるより良い社会のつくりかた

  • author Jun Fukunaga
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AbletonとGAKUが取り組む探究教育。音楽制作から考えるより良い社会のつくりかた
Photo: ギズモード・ジャパン

これもまた新しい教育のかたちなり。

自由度の高い操作性や洗練されたUIでミュージシャンの間で人気を博しているドイツ生まれの人気音楽制作ソフト「Ableton Live」。同ソフトを開発するAbleton社が、今年8月8日(月)〜29日(月)の全4回にわたり、10代向けの音楽制作ワークショップ「Music Making Workshop 2022」を渋谷PARCO 9階にあるGAKUにて開催しました。

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Photo: ギズモード・ジャパン

Ableton社では、近年、音楽制作ツールの開発販売だけでなく、音楽学習にも注力。これまでにノート、スケール、コード、ビート、ベース、メロディーなどの音楽制作の基礎知識をデスクトップ上のブラウザでインタラクティブに学習・実践できるチュートリアル「Learning Music」や同様にシンセサイザー/音づくりの基礎を学ぶことができる「Learning Synths」を提供しています。また音楽制作の楽しさを通じて、音楽に対する生徒の学習意欲を高めることを目的にした教育機関向けのプログラム「Ableton for the Classroom」も開催しており、ギズモードでも、昨年末に大阪府にある追手門学院中学校にて開催された「Ableton Live」を使った音楽制作のワークショップを取材したのは記憶に新しいところです。

すごいぜ、中学生。「Ableton Live」での音楽制作を通して"自分を知る"授業とは?

こんな授業受けたかった。みなさん、「Ableton Live」ってご存知ですか? ドイツのAbleton社が開発する音楽制作ソフトで、自由度の高い操作性や洗練...

https://www.gizmodo.jp/2022/02/ableton-live-workshop-osaka.html

一方、今回のワークショップの会場となったGAKUは、"クリエーションの原点に出会う、学びの集積地"というコンセプトの下、これまでに音楽、建築、料理、ファッション、デザイン、アート、映像などさまざまなクリエイターや専門家と10代が向き合い、創作する授業を多数開催。クリエイティブな感性や本質的な知識を磨く機会を提供するとともに、自己と他者の原点を理解する精神を育むことで、学生たちのこれからの人生を豊かにするだけでなく、多種多様な人々にとって生きやすい、新たな社会の土台づくりに取り組んでいます。

プロフェッショナルな制作環境を体験できるワークショップ

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Photo: ギズモード・ジャパン

Music Making Workshop 2022では、初回と2回目の授業でAbletonとAbleton Liveを直観的に操作できる専用コントローラーPush 2の基本的な使い方を学びつつ、3回目の授業では音を録音して作品を制作。最終日となる4日目の授業では、参加者それぞれが作りあげた作品を発表するという、Liveの使い方の学習と作品制作の大きく2つに分けたパートで構成されています。

またワークショップでは、ミュージシャンでAbleton社の認定トレーナーでもある森谷諭さんが講師を担当。学生たちにはAbleton LiveやAbleton Liveを直観的に操作できる専用コントローラーPush 2のほか、ギターやマイクを使いスタジオ品質でのレコーディングも可能なUSBオーディオインターフェースの「Scarlett Solo Studio」といった機材が提供されるなど、プロフェッショナルな制作環境を体験できる設備が用意されました。

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Photo: ギズモード・ジャパン

今回、ギズモードが取材に訪れたのは、その4日目のプログラムである学生たちによるAbleton社のツールを駆使したオリジナル作品の発表会です。当日は特別講師として、butajiとのアンビエントR&Bユニット「butasaku」や、iPhoneとサンプラーを用いたDJとしても活動するほか、有名アーティストへの楽曲・リミックス提供なども行なうミュージシャンの荒井優作さんが迎えられたほか、会場にはプロ向けスピーカー・メーカーのADAM AUDIOのスピーカーを導入。学生たちの作品を良いサウンド環境のもとで発表できる環境が整えられました。

10代の発想は"アイデア"に溢れている

森谷さんの「これまでの授業での成長を存分に発揮して楽しませてほしい」というコメントからスタートした発表会には、ローティーンからハイティーンまでの13名の学生たちが参加。生徒たちの作品の音源が入ったプロジェクトファイルを会場内の正面に設置されたスクリーンに映し出しながら、制作者本人が作品で工夫した点や苦労した点を発表するという形で行なわれました。

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Photo: ギズモード・ジャパン

また今回は学生たちがそれぞれ発表された作品を聴き、その感想を紙に書いて提出するという試みも行なわれました。これは作品を聴いて、具体的にどんなところが素敵だったかなど、曲の感想を述べることで自分の曲を客観視できるという狙いの下に行われたもの。初めて自分が作った作品をがっつり他人に聴いてもらう機会ということもあって、中には発表前から緊張の面持ちを浮かべる学生も。

そのようなプレッシャーがかかる状況でも、率直に言って学生たちが制作した作品のクオリティは総じて高い!しかも驚くべきは作品それぞれに学生たちの個性がちゃんと表れていたこと。たとえば、普段からトランスをよく聴き、「週末にレイヴに行くからそういう曲を作ってみた」という学生が作った作品は、アップリフティングに疾走するトランス風のビートだけでなく、YouTubeで見たクジラの鳴き声を逆再生したサンプルも使用するなど、小技の効いた楽曲に思わず感嘆の声がもれました。

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Photo: ギズモード・ジャパン

また「ちゃんとコード、ドラムから順番通りに作るのが初めてで、それに慣れるまでに苦労したけどそれも逆に楽しかった」という学生は、初めてとは思えない、プロのミュージシャンのように音の抜き差しで展開を作るというテクニックを披露。そのほかにも自分で弾いたギターや歌を録音して、Abletonライブに取り込む学生もいれば、「夏休みでダラダラしている感じを出すために生活音や環境音のサンプルを使ってみた」という学生もいるなど、聴いているこっちはアイデアに富んだ10代のクリエイティビティに舌を巻くばかりでした。

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Photo: ギズモード・ジャパン

それと個人的に特に印象的だったのが、「曲にまとめるのが難しくて完成させることができなかった」というある学生の発表です。その時点で完成していたのは、曲の素材となるパーカッションのループのみでしたが、発表時には森谷さんのサポートを受けて、Push 2を使いながら、即興でリズムのループにコードを重ねたり、それをループレコーディングしていきながら、エフェクトをかけるなどしながら展開をつけていく作業も行われました。また荒井さんは、「パーカッションのループが良かった。展開の余白はいっぱいあるので、あとはそれにあわせてメロディーを乗せていけばすごく良くなるはず」とコメント。この一連のやりとりには、学生たちとクリエイターの交流から新たなクリエイティブを生み出すきっかけを作るという、AbletonやGAKUが目指す教育の在り方が表れていたように思います。

クリエイティブを通じて社会を学ぶ

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Photo: ギズモード・ジャパン

今回のワークショップは、Ableton社のツールを通じて、学生自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見交換・協働したりしながら進めていく探究学習的な内容になっていました。

学生たちは作品制作をきっかけに自分の表現したいものをかたちにするために深く考え、試行錯誤しながらクリエイティブを生み出す方法を学びました。またその作品の発表を通じて、自分のクリエイティブや他者の作品の感想を言語化して伝えるという方法も学びました。

GAKUの公式サイトには、

古今東西のあらゆるクリエーションは、自分自身の原点から始まっていると思います。様々な事象が急激に変化し続ける現代だからこそ、自分自身の原点を見出し、そこにじっくりと向き合う機会が必要だと感じています。

というGAKUディレクターの山縣良和さんのメッセージが掲げられていますが、確かに現代はさまざまな価値観がアップデートされ、これまでにないスピードで社会の多様化が進んでいます。そのような中で求められるのは自己と向き合い、想いをかたちにすること、そして、その想いを他者に押し付けるだけでなく、他者の想いもしっかりと受け止めた上でよりよい答えを見つけるために手を取り合うことだと思います。

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Photo: ギズモード・ジャパン

最近は他人を"否定しない"ことが社会における価値観として注目されていますが、否定しないこととは、額面どおりの言葉ではなく、他者に対する理解と思いやりを深めることだと思います。そして、クリエイティブとはそのための方法を探るためのツールとして機能するものでもあると考えます。その意味で今回のワークショップは、学生たちだけでなく、筆者のような大人にとっても今一度、そのようなクリエイティブの意味やあり方を見つめ直す絶好の機会になりました。

10代の若者と現役のクリエイターが交流することで広がるクリエイティブの場であり、音楽制作だけでなく、社会生活についての学びの場でもあったMusic Making Workshop 2022。今後もAbleton社とGAKUの取り組みを通じて、素晴らしいクリエイティブを生み出す方法が模索されていくことになるでしょう。そして、そこでの学びや気づきが我々の未来をより明るいものへと変化させていく原動力になるはずです。

Source: Ableton