「授業が難しすぎる」学生からの抗議で著名な有機化学教授がニューヨーク大をクビに

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「授業が難しすぎる」学生からの抗議で著名な有機化学教授がニューヨーク大をクビに
Image: New York University

赤点・0点の落第生にも医学部進学のセカンドチャンス。

医学部受験必修科目のなかでも難易度の高い化学。わけても有機化学は論理的思考が問われる難関科目なわけですが、ニューヨーク大学では有機化学で赤点や零点をとる学部生が続出し、「あまりにも難しい」と署名運動が沸き起こり、大学側が教授を解任。授業を取らなかったことにして、来年また受けられるようにする「今年限りの特例措置」を採り、「ヤブ医者を量産する気か」と波紋を呼んでいます。

署名運動から契約打ち切りに

秋学期の契約更新を見送られたのは、プリンストン大学を定年で退任後、ニューヨーク大学名誉教授に就任したMaitland Jones有機化学教授(84)。有力な教科書編纂の実績もある国際的に著名な教授で、2017年には「ニューヨーク大学でもっともクールな教授8人」にも選ばれていたベテラン中のベテランです(「40年近くで225もの論文発表に関わった」と当時の紹介文にはある)。

春学期にコロナのリモート授業が終わって対面授業が再開したら、テストの点が伸び悩む学生が目立つようになり、「教え方が悪いせいだ」と授業の見直しを求める署名運動が沸き起こり、受け持ちの学生350人中82人が署名。教授は反論したんですが、学長側の判断で契約が打ち切られてしまったのです。

さらに教授がつけたABC評価の修正を申し出たほか、成績が悪すぎて本来であれば医者の道を断念せざるをえない学生についても、最初から授業を取らなかったことにしてもいいと言い出すなど、たいへんな気の使いよう。解任前に化学課程学部長からJones教授に届いたメールには、「(署名した)学生および学費支払主に手を差し伸べる措置」と説明がありました。「学生は金を払うカスタマー」という昨今のメンタリティが浮き彫りになった形です。

一般的に大学では授業を取るかどうかは、学期の始まりに決めることであって、何週間か出席して期限内にドロップしなければ、その後はいくらテストの点が悪くても、過去に遡ってドロップすることはできません。落第すれば「F(Failure)」として成績表に残るのが通例です。 「そこまで翻すのは行き過ぎじゃないか」「頑張ってパスした優等生が馬鹿を見る」と、この特例についても内外から大きな批判が湧き起こっていますよ。

コロナ禍で勉強の仕方を忘れちゃった?

Jones教授がニューヨーク大学に来たのは2007年のことです。医学部を志す学生で授業は活況を呈したのですが、集中力の低下が著しいと10年ほど前のインタビューでこぼしていました。今回も大学側に抗議する書面のなかで「設問の誤読率が驚くほど高い」とし、テストの難易度を下げても成績の下落は止まらなかったと書いています。ただでさえ成績が下落傾向なのに、折からのコロナ禍で「ここ2年は崖から転げ落ちるよう」になり、「今はテストの点が1桁の学生、0点の学生さえいる」とのこと。まるでコロナの2年の空白で勉強の仕方を忘れてしまったかのようだといいます。

自腹で5,000ドル(約73万円)出して、ほかの教授ふたりと講義を録画して公開したのですが、それでも475人中30人の学生から、「家の接続環境が悪くて講義も満足に受けられない」とかなんとか文句つける反対署名が舞い込んできて、対応に苦慮していました。

同じような目に遭ってる教授はほかにもいて、ある教授はオンラインのテストでカンニングした学生に悪い成績をつけたら、「こんな成績じゃ医学部に進学できない」と抗議が飛んできたとNew York Timesの取材に答えています。

学生のJones教授に対する抗議内容を整理すると次のようになります。

・中間テストが3回から2回に減って、成績挽回のチャンスが奪われた。

・ZOOMで受講できなくなって、COVID疾患中の出席に支障が出た。

・自分の平均スコアの途中経過を見られなかった。

それに対してJones教授の反論は次の通り。

・中間テストが減ったのは、最初のテスト前に講義が6回しかなくて不十分と判断したから。

・ZOOMは、講義室の設備の都合上、板書の設問まで録画できなかったため。

・成績の25%が期末試験とラボで決まるので、平均スコアは途中で出しようがなかった。

見事パスした学生たちの間では、「とてもインスパイアされるいい授業だった」「文句言ってるのはリソースを使い切らなかった学生ばかり」との声もあり、どう考えても学生側の要求に無理がある気がするんですけどね。

SNSでネガティブな話が広まると、大学ランキングに影響して収益にも影響が出るため、今どきの大学はなんでも事を穏便に済ませようとするとの声もあります。騒いだ者勝ちで、公正さと誠実さは後回し…なのか…。

Sources: New York Times