当たり前だったものがまたひとつ、当たり前じゃなくなった。
Adobeのデザイン系ソフトウェアを使ってる方々には今、困ったことが起きてます。Adobe Creative Suite、つまりPhotoshopやIllustrator、InDesignといったソフトウェアの中で、ある種の「色」が有料になり、月15ドル(約2,200円)かかることになったんです(年間だと90ドル≒約1万3000円に割り引かれますが、それにしても)。しかもその「色」というのは、特殊な色とかじゃなくて、業界標準になってるPantoneのライブラリで指定した色、なんです。
色ってたとえば「赤」といってもいろんな色味がありますが、Pantoneのライブラリを使うことで「Pantoneの185C」といった明確な指定ができ、デザイナーが考えた通りの印刷物とか制作物を作れるわけです。色の指定方法はPantone以外にもいくつかありますが、中でも世界標準になってるのがPantoneで、Adobeのソフトウェアでも(無料で)使えるようにずっと組み込まれてきて、たくさんのデザイナーが使ってきました。
でも今回の変更は、過去のファイルにさかのぼって適用されてます。だから15ドル払ってない人は、今までの作品の中でPantoneのカラーライブラリから選んだ色が黒塗り表示されるホラーな事態となってます。
画像が黒塗りに
Twitter上では、そんな黒塗り画像に添えられたエラーメッセージのスクショがシェアされてます。そこには「このファイルには削除されたPantoneの色が含まれており、PantoneのAdobeへのライセンスの変更によって、黒に置き換えられています。これを解決するには、「詳細」をクリックしてください」とあります。
Fun times ahead for #Adobe designers. Today, if you open a PSD (even one that's 20 years old) with an obscure PANTONE colour, it will remove the colour and make it black. Pantone want US$21/month for access, and Solid Coated goes behind the paywall in early November. pic.twitter.com/BUxzViYFaQ
— Iain Anderson (@funwithstuff) October 28, 2022
Adobeもこのメッセージの表示は認めており、その原因はすべてPantone側にあるという姿勢です。Adobeのチーフプロダクトオフィサー、Scott Belsky氏はツイートでこう書いてます。「実際Pantoneが、彼ら自身で直接ユーザーに課金したいがために、削除を要請したのです」
pantone actually required the removal, as they want to charge customers directly. 🤷♂️
— scott belsky (@scottbelsky) October 31, 2022
お金を払っても解決しないことも
しかも、Pantoneに仕方なくお金を払ったユーザーでも、この問題が解決するとは限らないようです。PantoneはAdobeのソフトウェア向けにPantone Connectというプラグインを作っていて、これをダウンロードすればPantoneの色が使える、と言ってるのですが、実際はダウンロードしてもAdobeのソフトウェア上に表示されなかったり、表示されてもちゃんと動かなかったりするケースが報告されてます。ちなみにこのプラグイン、Adobeのプラグインのストア(Adobe Exchange)では「無料」と表示されていて、フルカラー使うには有料ってことは詳細まで読まないとわからないのもなんだかトリッキーです。
もっといえば、Pantone Connectを使えたユーザーであっても、インターフェースが重いとか、「使えるレベルじゃない」と評価する人もいます。Adobe ExchangeのPantone Connectのページによれば、プラグインが最後にアップデートされたのは2019年9月なので、なるほど…という感じです。
プラグインに星1つの集中砲火
Pantone Connectのページにはそんなユーザーの不満が炸裂しています。そもそもAdobeのソフトでPantoneの色を使う人は、Adobeにはソフトのサブスクリプションを払ってるし、Pantoneには色見本(カラーブック)の代金を払ってるわけなので、その上「AdobeでPantoneを使う権利」を買わされるってどうなの? ってことです。
「残念なんてもんじゃありません。本を買い、インクを買い、今度はデジタルライブラリかと! 銭ゲバたちいい仕事した。誰かクビにしろ!」とか、「これでトクするのはお前らAdobeとPantoneだけ! どこまで行くのか? Adobeのサブスクでさえ払えないデザイナーもいる。みんなお前らが作ったものから離れていく。いつ止めるんだ?」とか、「バグだらけだし、プログラムに入ってたものとかオンラインで無料だったものとかに追加料金を払うのにうんざり。デザイン用プログラムはそもそもが高いのに、さらにサブスクリプション払わなきゃいけないの? もっとちゃんと顧客のこと考えて!」とかとか、怒りのコメントが続いてます。
そんなわけで今、Pantone Connectには星ひとつのレビューが集中しています。この記事翻訳時点で、Pantone Connectに集まった評価404件中329件が星ひとつで、星の数の平均は1.5になってます。
伝え方の問題も
ユーザーの怒りは、AdobeとPantoneがこの変更をもっとうまく伝えてくれてればここまでにならなかったかもしれません。Adobeは2021年12月の時点で、Pantoneのカラーライブラリをアプリから削除することを発表したんですが、そのとき言ってた削除時期は2022年3月という話でした。でも結局そのときは何も起こらず、その後Adobeから、削除は2022年8月に、という発表がありました。で結局そのときも何も起こりませんでした。
なのでユーザー側としては、Adobe(またはPantone)には本当に削除するつもりはないのかな? って空気もあったんですよね。ユーザーに不評だから、やめるのをやめます、ってことなのかな? と。安心しかかってたら急に黒塗り、っていうのが今です。
両社の言い分は
Adobeのデジタルメディアマーケティング・戦略・グローバルパートナーシップ担当シニアバイスプレジデント、Ashley Still氏は米Gizmodoに対するメールで、Adobeとしては「Pantoneがビジネスモデル変更を決断した」ことを6月に情報共有していたと言ってます。
「完全なPantoneカラーブックにアクセスするには、Pantoneは今、Pantone Connect経由での有料ライセンス購入と、Adobe Exchangeを使ったプラグインのインストールを求めています」とStill氏は説明します。
我々は現在、ユーザーが受ける影響を軽減する方法を検討しています。今のところ、ユーザーはCreative Cloudのサブスクリプションを通じて、最大14の広範囲なカラーブックにアクセスできます。
一方Pantone側は、Adobeの問題だという言い方です。米Gizmodo宛のメールの中で、Adobeを「信頼するパートナー」と表現しつつも、Adobe Creative Cloudに対してはPantoneがキュレーションしたカラーライブラリを使用許可していて、ただそれが全色ではないだけだ、と言ってます。
私たちは、我々のパートナーのソリューションの価格や機能、ユーザー体験を決めることはありません(訳注:Adobe上での今回の見せ方を決めたのはあくまでAdobeであってPantoneの意志じゃないってことですね)が、極力最善の顧客体験を作りだすために、パートナーと緊密に協力はしています。Adobe Creative Cloudの顧客は、Pantone Connectを活用することで我々のフルなカラーライブラリシステムへのアクセスを手に入れることができます。
とPantoneは言ってます。
我々のミッションと価値観にもとづき、PantoneはAdobe Creative Cloudユーザーにとって有用なリソースであるべく尽力していきます。PantoneはAdobeを信頼するパートナーとして、Creative Cloud内でのアドイン拡張体験をさらに改善すべく協力を続けます。
結局、AdobeとPantoneどっち側の問題なのか、それともそれぞれの行き違いでこうなってるのか、よくわかりませんね…。でもとにかくどっちの会社も、なるべくお金をかけずに、なるべくたくさんお金をもうけたいという、そういう考え方なんでしょうかね。