そのうち地上で宇宙食ブームがくるかも?
国際宇宙ステーション(ISS)の長期滞在は、宇宙飛行士の体に負担がかかります。それになんといっても、あんなに遠くまで送ったり限られたスペースに保存したりできるものに限定されちゃう宇宙食は、健康的とは言えないんですよね。そんな状況を改善すべく、科学者たちが宇宙環境に特化した食事をつくって検証したところ、健康やパフォーマンスに顕著な効果が見られたそうですよ。
宇宙にも健康食を
地球の上空400kmに浮かぶISSには洗練されたキッチンがあるわけじゃないので、手間ひまかけた食事はできません。宇宙まで食材を運ぶのにコストもかかりますし、デッカいパントリーもないので、省スペースにするためにできるだけコンパクトにする必要があります。
ISSの標準的な宇宙食は、飛行士の母国にあわせた健康的な食生活の再現を目指していますが、米航空宇宙局(NASA)ジョンソン宇宙センターのHuman Health and Performance Directorateに所属する科学者チームがScientific Reportに発表した研究結果によると、宇宙環境にあわせた「改良型の食事」のほうが、健康的でパフォーマンスも向上するんですって。また、果物や野菜たっぷりの改良食は、宇宙特有の悪影響を軽減する可能性があるのだとか。
改良食で健康状態や認識能力が向上
今回の研究は、ISSでの実験前に改良型宇宙食の影響を評価することを目的として、事前に食事の摂取量の記録、生体サンプルの採取、認識力テストの実施方法について訓練を受けた30歳から50歳までの男性10人と女性6人の計16人の被験者が4人1組になり、宇宙環境を模したHuman Exploration Research Analog(HERA=人間探査模擬研究)に45日間滞在して行なわれました。

実験では、宇宙空間を模した閉鎖的な空間に加えて、保存がきくように包装されたISS仕様の食品が用いられました。食事は改良食と標準食の2種類で、後者が対照群に与えられました。
改良食では、標準食よりも食事の回数、果物や野菜、魚の種類を増やし、フラボノイドやオメガ3脂肪酸の摂取源も追加されました。被験者は、その他の健康食品に加えて、果物と野菜を1日あたり6回以上、魚を週に2~3回食べたそうです。45日におよんだシミュレーション期間中、各被験者は尿、唾液、血液、便のサンプルを提供し、認識力テストも受けました。
興味深いのは、どちらのグループも体重が少し減ったことですが、改良食をとった被験者には明確な効果が見られました。研究論文にはその効果について
全体的に、改良食を摂取した被験者は、標準食を摂取した被験者と比較すると、健康、ストレス、認識能力、栄養摂取量で改善や向上が見られ、マイクロバイオーム(腸内微生物による腸の健康)に高い安定性を確認しました。
と記されています。具体的には、コレステロールとコルチゾールのレベルが低下し(後者はストレス軽減を示唆)、認識力に関しては速さ、正確さが向上し、注意力が高まったとのことです。
宇宙空間での実験や、被験者層の拡大が課題
結果について研究チームは、「この研究によって、改良型の宇宙食は健康と認識能力の向上に効果があることを示した」と述べています。また、今回の実験は、無重力や放射線への曝露の増加といった宇宙特有のストレスに関するデータと比較するための、地上で提供できる重要な基本データであるとしています。宇宙特有の悪影響を防ぐ対策として、改良型宇宙食をより適切に評価するには、今後さらなる研究が必要とのこと。
よい研究だと思いますが、まだ何か足りない気がします。宇宙を模した環境とはいえ、それでも被験者は地球上で宇宙食を摂取したわけで、実際に宇宙空間で行なわなかったことに限界を感じます。次のステップとして、今回の実験を地上よりもっとストレスが大きな宇宙で再現して、コルチゾールのレベルなどの違いに注目するのが賢明だと思います。また、通常6カ月行なわれる長期ミッションと比べて、45日間は短すぎます。改良型の食事が実際のミッションと同じ期間でどのような効果を見せるのかを知りたいですね。
また、サンプルサイズをもっと大きくすればいいと思います。女性をもっと増やして(男女比10対6だったので)、さまざまな食事のニーズや制限のある人、基礎疾患(糖尿病など)を持っている人、さまざまな体格の人、特定の薬を服用している人などを含めるのもいいでしょう。サンプル数が少ないことを承知のうえで、実験の手法について「宇宙飛行中の食事がもたらす影響について重要な知見を提供した」と述べているのはちょっとどうかと思うので。
宇宙が身近になるからこそ重要な宇宙食
でもそんな懸念はさておき、今回の論文は宇宙飛行士が健康に生き生きと、そして高い能力を維持するために必要な食品についての理解を深めてくれるものです。また、宇宙食が乗組員を宇宙空間の悪影響から守ってくれる可能性まで示してくれました。
「地球の低軌道をはるかに超える宇宙空間における安全な探査を可能にする」ために、「食品は将来的な探査型ミッションに必ず含まれるであろう対策のひとつです」と研究者は記しています。これはまったくその通りで、宇宙ステーション滞在や月旅行、火星探査など、宇宙へのアクセスがますます身近になってきた今、宇宙食のことを真剣に考えるのは重要です。
実験には参加したくないけど、改良型宇宙食は食べてみたいかも。