大人よりも子どもの方が必死にならないといけない世の中なんて間違っている!その不満をホラーに込めたらカオスになった

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  • author 中川真知子
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大人よりも子どもの方が必死にならないといけない世の中なんて間違っている!その不満をホラーに込めたらカオスになった
Image: ©️2022MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

「このインタビューが終わったら息子さんを抱きしめてあげてくださいね」

筆者は、奇妙奇天烈すぎて最後に怒りの感情すら湧いてきたホラー映画『MEN 同じ顔の男たち』のアレックス・ガーランド監督にインタビューしていたはずなのに、なぜか子育て談義になり、息子を抱きしめる約束をしていました。

予定では、何で監督があのような作品にしたのか、どんなメッセージが込められていたのかを聞いて、読者が鑑賞後に抱くであろう疑問にスパッと答える記事にするはずだったのに。

あれ? なんでだっけ? 『MEN 同じ顔の男たち』って子育て関係あったっけ?

というわけで、今回は『28日後…』で猛ダッシュするゾンビを誕生させ、『MEN 同じ顔の男たち』でホラー映画の新境地を開拓したアレックス・ガーランド監督のインタビューをお届け。最後まで読めば、なぜ監督と子育て談義になったのかがわかるはずですよ。


──『MEN 同じ顔の男たち』、凄まじかったです。ホラー映画だと聞いていたのですが、果たしてホラー映画だったのでしょうか。監督にとってのホラー映画って何なのですか?

アレックス・ガーランド監督(以下、ガーランド監督)ホラー映画といったらすごく広い意味になってしまうよね。映画にホラー要素が入っていれば、それはホラー映画になる。僕はジャンルとしてみているよ。

ホラー、SF、スリラー、ドラマもジャンルだよね。ジャンルには、決まりごとみたいなものがあって、その決まりごとを駆使して、どんでん返しにしたり、びっくりさせたりするんだ。

ホラー映画っていうのは、観客側に一定の期待がある。観客がそれを意識してホラー映画をみているのかわからないけれど、そういった“決まりごと”はストーリーテラーの視点からの無料ギフトみたいなものなんだよ。

『MEN 同じ顔の男たち』はホラーじゃないのでは

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Image: ©️2022MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

──本作は監督の言うところの”お決まり”から外れていたようですが。

ガーランド監督ホラーだけど、最終的にはホラーの鉄則を壊した作品だね。昔ながらのホラーは、誰かもしくは特定のグループが幽霊や殺人鬼みたいなのと出くわして、どんどん追い詰められていくんだけど、最終的には残されてボロボロになった人が見事モンスターをやっつけて命からがら助かる、といった展開。基本的に緊張感というのは、右肩上がりになっていくわけ。

でも、『MEN〜』の場合は、ヤバいことの多くは最初のほうで起こって、後半にいくごとに痛ましい感じになっていく

クライマックスは最も危険な展開になっているべきなのに、望みがなくなっていくんだ。ヒーローは怖がってもいない。怒っているというか、呆れている感じ。

だから、ホラー映画かと聞かれれば、ある意味ホラー映画ではあるのだけど、ホラー映画らしい主人公はいないし、ホラー映画としてのストラクチャーには従っていないし、ホラーでありながらホラーであることをやめた映画という感じかもしれない。

──監督はホラー映画のクリシェ(お決まり)を壊すのが好きなんですか? 『28日後…』ではダッシュするゾンビを描いてセンセーショナルだって言われましたよね。それまで、ゾンビといったらノロノロ歩いて人間の脳みそを食べるイメージが強かったのに。私は『28日後……』前と後でゾンビ映画の表現の自由度が変わったと思っています。

ガーランド監督あのアイディアは、実は日本のビデオゲームからきているんだ。自分は52歳なんだけど、90年代に日本の「バイオハザード」というゾンビゲームをプレイして、気付いたんだよ。映画に出てくるゾンビって実はそんなに怖くないんだ、って。

プレイする中で、ドアを破壊して急に出てきたり、引っ張られたり、囲まれたりしたら大変だよ。でも、そうでもない限り、ノロノロ動いているなら逃げる時間は十分にあるんだ。僕はゲームがうまいし、結構ちょろいもんなんだって思っていた。だけど、すばしっこいゾンビ犬には手こずった。なにせ動きが速くてね。それで、「自分は今まさにゾンビと戦っているのだ」と感じたんだ。

ゲームの中でも、ゾンビが素早く移動したら大変だよ。だから、『28日後…』では走るゾンビにしたんだ。あれは敬愛する「バイオハザード」への僕からのリアクションみたいなものだよ。

今の世の中はおかしい。こんな教育システムは馬鹿げている

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Image: ©️2022MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

──そうなんですね。てっきり監督は古い価値観を壊して、新しい価値観を提示しようとしているのかと思っていました。

ガーランド監督広い意味ではそう言えるかもね。僕は今の世の中に疑問を持っているんだ。そして、常に問い続けている。僕らは二つの世界を生きていると思う。一つが、そこに暮らして、そこにあるルールを受け入れる世界。もう一つが、そこに暮らすんだけど、全てのルールに疑問を持つ世界。僕は後者なんだ。

僕には15歳の娘がいてね、学校に行って勉強して、家に帰ってきて2時間宿題をするんだよ。52歳の自分よりもやることが多い。おかしいと思わない? 52歳は仕事が終わったらリラックスしてソファでテレビなんかを見る。娘はリラックスしている52歳の横を通って自室に向かい必死に勉強するんだ。15歳はまだ子どもなのに。

僕らが子どもの頃、こんなに必死に勉強したか? こんな教育システムはおかしいと思わないか? 何で大人よりも子どもが必死にならないといけないんだ。ひどく馬鹿げた世界を生きていると思う。

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Image: ©️2022MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

僕はきっとこれからも、「何でこんなことになった」と問い続けながら生きるだろう。こういう疑問は人にとって馬鹿馬鹿しく単純で子どもっぽく聞こえるかもしれない。洗練された大人なら、答えを知っているべきことだしね。

でも、こういうことを突き詰めていくと、意外なほど誰も掘り下げて考えていないことに気づくんだよ。良い答えなんてないって。大人よりも、子どものほうががむしゃらにならないといけない正当な理由や答えなんて存在しないんだと思うんだ。ただ、社会のパターンを受け入れてしまっただけなんだ。

君は、僕がクリシェを破壊しようとしているのか、と聞いたよね。

──はい。

ガーランド監督多分そうだよ。でも、僕がしようとしているのは、ホラー映画のクリシェにとどまらず、全てなんだ。僕たちが住んでいる社会はおかしいから。僕が言っていることはナイーブで洗練されたものとは程遠く聞こえるかもしれないけれど、よく考えて観てほしい。10歳にも満たない子どもが勉強漬けの日々を送るなんておかしいだろう。

学校に行って学ぶのは大前提だけど、子ども時代を楽しむべきだろう。繰り返しになるけれど、娘が夜遅くまで必死に勉強している横で、僕がテレビを観たり本を読んだりリラックスしているなんてどうかしていると思うよ。

でも、どうすれば良いのかわからないんだ。正直なところ、娘に「試験をパスしようとしなかろうと僕はどっちでも良いんだよ。そんなに必死にならなくても良い」ということくらいしかできないと思う。僕にとって、そして僕の業界にとって学校の成績は重要ではないし、周りを見渡しても、学校の成績がよかったから業界に入れた人はいない

書いたり、写真を撮ったり、音楽だったりへの情熱が認められたから入ってくるんだ。それらは学校では教えてもらえないことだし、試験で測れるものでもない。

今日のインタビューの趣旨とずいぶん違う方向に来ちゃったな、と思っているかもしれないけれど、でも、そうでもないんだよ。僕は、あまりにも当たり前で世間から振り向かれもしないことにメスを入れたいのだから

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──監督の話を聞いていて、さっき9歳の息子に「もっと真面目に勉強しなさい」と叱ったのを後悔しました。

ガーランド監督僕もそうやって教えられてきたよ。同じシステムの社会に暮らしているから。でも、それはとてもおかしなことなんだよ。本当に歪なんだよ。

──すごく考えさせられます……。一晩中でも監督と子育て談義していたいです。でも、時間的に次の質問に移らないと……。ところで、『MEN』もそうですが、最近のホラー映画は複雑だと感じませんか? 私はスラッシャーホラーで育った世代ですが、そういった作品よりもメッセージ性のある難解な作品が求められているのでしょうか?

ガーランド監督映画が複雑になっていく、というのは前から繰り返されているんじゃないかな。

僕は1970年生まれで、幼い頃、父は『ドラキュラ』を本当に怖かったと言っていた。でも、子どもの僕にとって白黒映画の『ドラキュラ』は怖くなくて、むしろ、純粋で馬鹿げているとすら思ったね。特殊効果だってアニメっぽく感じたよ。

今の子どもたちも、当時の僕と同じように感じていると思う。『ハロウィン』のような古いスラッシャー映画を見せても、きっとテンポが遅いとか単純だとか思うだろう。作品を批判しているんじゃなくて、それが現実なんだよ。若い世代はそう感じるだろう、というだけなんだ。

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時代の進化と共に観客の感性も研ぎ澄まされる。僕たちは、80年代のスラッシャーホラーの、ナイフで指したら血がブシャーっと噴き出るのを受け入れていたけれど、どんな仕組みなのかバレバレだったじゃないか。うまく隠れていないんだよね。それは、意図的に何を見て、何に目を瞑るか選択していたから楽しめていたんだ。

今の時代、観客はハイクオリティのビジュアルエフェクトやスペシャルエフェクトに慣れすぎてしまっている。それに、マーベル映画を見慣れているだろう。一般的な映画の4倍くらいのエフェクトと予算で作られた作品を浴びるように見ている。そういう子たちの感性が僕たちの若い頃と違うことは受け入れなければならない。

だから、複雑になってきたと感じるかどうかは、あなたの興味がどのレベルにあるのかに依存しているのかもしれないね。この作品も複雑だっていうけれど、哲学的な要素は入れたけれど、言っていることは実はそんなに複雑じゃなくて、むしろ直接的なんだよ。

「ミソジニー」と男としてワインスタイン事件をどう捉えるか

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──今、監督は「直接的な哲学を入れた」とおっしゃいましたが、具体的にはどういうものですか。

ガーランド監督うーん、いくつかあるけれど白黒つけられるようなものではないよ。ひとつは、女性嫌悪や女性らしさを否定する「ミソジニー」について。ミソジニーは作られたものではなく、ちゃんと存在する。そして、誰かがミソジニーについて話そうとしたら、女性だけでなく男性もしっかり意見する必要があると思うんだ。僕だけでなく、いや、僕がミソジニーについてベストな意見を持っているというわけではないけれど、女性と同じように男性も発言していくのはプロセスとして重要だと思っている。

それと、これは私の意見ではなく、誰かに言われたこと何だけど……。何件もの性暴力事件を起こして隠蔽し、最終的に逮捕/収監されたハーヴェイ・ワインスタインという元大物映画プロデューサーがいたよね。

彼のことを、とんでもないモンスターだと言って、個の問題で捉えたら自分たちは安心できる。でも、彼をスケール上で考えたらどうだろう。彼はエクストリームなケースだけど、彼はあくまで自分たちの延長線上にいると想定したら事件は違って見えてくるだろう

誤解してほしくないのは、僕は全男性をワインスタインと同一視しようとしているんじゃない。そんなの馬鹿げている。でも、慎重に点を繋げていったらワインスタインに通じるものがあるんじゃないか、と考えている。この考えが全員に受け入れられるとは思わないし、自分は絶対に違うと否定する人も出てくると思う。男性が悪いとか、鬼だとか言いたいわけじゃないんだ。でも、考えたり意見したりしなければならないことだと思っている。

言おうとしていることが伝わっているかな?

──自分はそういう風にワインスタインの事件を見たことがありませんでした。しかも、それを男性側から言われるなんて……。そういうメッセージを『MEN同じ顔の男たち』にこめているのだったら、もう一度その視点で見直してみようと思います。

とりあえず、さっき息子に勉強しなさいと叱りつけたことを謝ってきます。

ガーランド監督約束だよ。

アレックス・ガーラント監督

『MEN 同じ顔の男たち』は12月9日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。

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Source: 『MEN 同じ顔の男たち』