音楽ライターが「数十万円のオーディオインターフェイス」を必要とする理由

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音楽ライターが「数十万円のオーディオインターフェイス」を必要とする理由
Photo: 今津甲

「え、彼ってそんな才能あったんだ!」みたいな身近な驚き、たまにありませんか?

これって人に限ったことじゃないですけどね。モノにだって同様な場面はある。なかでも、持ってる人の9割ぐらいはその真価を知ると驚く、っていうブツがあります。それがコンピュータ。

は? 毎日使ってるあれのどこが? いや音なんですよ。コンピュータで再生可能な音楽の真価。たしかに内蔵スピーカーもそこそこです。ただ「今年のモデルは音もいい」と言っても、それは過去のPCと比べれば、だったりする。でも本当にあれっくらいのレベルのサウンドしか出なかったら、音楽業界は成立しません。プロの世界ではポップスからクラシックまで、もう20年以上も前からコンピュータで作品づくりをしているわけですから。

となるとそこには、あのコンピュータの潜在能力を引き出すための、何らかのツールの存在があるはず。それがDTMの世界ではオーディオインターフェイスと呼ばれ、オーディオの世界ではUSB DACと呼ばれる機械なんです。

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黒いのがオーディオインターフェイス、RME「ADI-2DAC FS」

機械といっても、ペンシルサイズで1万円以下のものから、上は数百万円のプロ機まである、やたらと広大な領域なんですけどね。僕がそこに足を踏み入れたのは今から20年近く前。多くのみなさんと同じくDTM用に、でした。最初はDAWへの入力およびモニター用に使っていたので音質を比較しようがなかったんですが、ある時。

さんざんオーディオで聴いていたCDの一部をDAWに取り込んだのち再生してみて、その高音質ぶりを自覚しました。それは昔のコンピュータに付いていたディスクドライブにCDを入れて、本体内蔵スピーカーで聴く音楽とはレベチだったんです。

オーディオインターフェイスはMOTUの製品を何代か乗り換えたあと、コンピュータをiMacに変えたのに従い、あれの下に置いてデザイン的におかしくないZOOMのコンパクトなものにしました。

言いそびれていましたが僕の職業は音楽ライターで、ミュージシャンに取材をする際、まずはレコード会社から発売前のサンプル盤が送られてきます。最初のうちそれはCDだったんですが、世の中がダウンロード〜ストリーミングになるにつれ、データでの送付になりました。そうなってくるとコンピュータをベースに仕事に耐えうる音楽再生をしないといけない。ということで、ますますオーディオインターフェイスの存在が重要になっていきました。

RME全景
RME「ADI-2DAC FS」

さらに。3年ぐらい前からオーディオ雑誌にも記事を書くようになりました。自宅に編集部員が来たり、新製品の試聴をウチでしたりする場面も出てきました。あげくあるとき、編集長がウチの仕事場に音を聴きに来ることに。さんざん評論家のお宅を音を聴いてきた人物の来宅です。

ここで問題発生。これを機にスピーカー、アンプ、プレイヤーを総入れ替えしたらどうにも音がまとまらなくなったのです。ラインケーブル、スピーカーケーブル、電源ケーブルの組み合わせを様々に変え、スピーカーまわりのセッティングを10通りぐらい試し、自作の吸音ポールをコーナーに立て…。なんとか形になってきた音でしたが、低音の膨らみだけはどうしても解消できませんでした。

そのまま時間切れで編集長来宅。実はこの時まで、彼がどんな耳の持ち主から知らなかったのですが、リスニング用の椅子にすわって音が流れるやいなや、お言葉がありました。

あれ? 逆相じゃないですか ?

逆相というのはスピーカーケーブルのプラスとマイナスを間違えて繋いだときなどに発生する、ピントがボケたような状態のことです。かるーく血の気が引きつつスピーカーとアンプの裏を見てみたんですが接続は合ってます。そう告げても不審な顔のままの編集長。で、さらにチェックしてみると、プラスとマイナスの接続を間違えないようにと長いスピーカーケーブルの2本線の一方に、マーカーでつけた赤い印自体が両端で違っていたのです!

以前に来たミュージシャンの友人も見抜けなかったミステイクを秒で指摘した編集長に、僕の評価はダダ上がりです。そして問題が解決したあとに改めて音を聴いてのちの神の声は

普通の人が何気に聴いたらびっくりするレベルだと思いますよ。低音はもっと抑え気味でいいと思いますが。

やはり低音。しかし対策はし尽くしているし…。ここであることに気づきました。自分が完全オーディオ脳で考えていたことに。これをDTM脳に変えてみれば答えは簡単でした。「低音が出過ぎならイコライザーで抑えればいいじゃん」っていう。DTM側の言葉で言えば、オーディオとは機器の組み合わせで音をイコライズする趣味、ということになるわけですが。


自分の部屋で音楽がどんな風に鳴っているか、ということを客観的に探る術としてサイン波スイープがあります。ポーというサイン波の音を人間の可聴範囲で低音から高音まで移動して鳴らしていく。その過程で音が小さくなったり大きくなったりする部分に問題あり、という仕組みです。YouTubeにも無料でたくさんアップされているこれをオーディオインターフェイス経由でスピーカーから流し、それを周波数特性をチェックできるスマホの無料アプリでキャッチする。結果、ウチの部屋の低音過多は80Hzが大きく盛り上がってるせい、ということがわかったのです。

Video: sound quality lab. / YouTube

となれば、あとはシステムのどこかにイコライザーをかまして80Hzをカットすればいい。コンピュータ内でそれをやるのは簡単ですが、それだとダウンロードした音源をいちいちDAWに取り込まないといけない。仮にストリーミングの音までもイコライジングできたとしても、外部のCDプレイヤーを使うときは対応しない。だったら昔ながらのハードウェアのイコライザーを買って、アンプの前に接続するか? でもそれだとコンピュータとCDプレイヤー、2系統のステレオ入力がないとむずかしい…とかいろいろ考えました。

最終的に「CDプレイヤーもコンピュータも信号はデジタルなんだから、イコライザー内蔵のオーディオインターフェイスがあればいいんじゃね?」と思い至り、探しに探して辿り着いたのがRMEの「ADI-2DAC FS」という機種でした。RMEというのは、宅録とかとは無縁なオーディオマニアでもなぜか知っている、老舗オーディオインターフェイスの会社です。オーディオ界でも高音質ダウンロードが流行ったとき、プロトゥールスは知らなくてもRMEを定番視する方がいっぱいいました。

RMEイコライザー
RMEの「ADI-2DAC FS」は、5バンドパラメトリックイコライザー内蔵

そういう背景があってかどうか、ADI-2DAC FSは、オーディオインターフェイスというには非常に珍しいスペックだったんですね。まずマイクや楽器入力といったものはなく、再生に特化している。さらにこの手の機種のアナログ出力はフォンジャックとキャノンだったりするのが、ADI-2DAC FSはオーディオアンプにそのまま繋げるRCAピンがついている。それでいてこれは通常のオーディオインターフェイスでも珍しい5バンドパラメトリックイコライザー内蔵。このスペックを知って即買いしました。そして内蔵イコライザーであっという間に低音問題は解決しました。

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ステレオアンプ&デジタル機器のホームオーディオ接続例。ウチはパッシブ=普通のスピーカーなので、図で「プリアンプ」となっているところは「プリメインアンプ」です。 Image:synthax

ちなみに、本機が対応するデジタルデータの上限はPCM32bit/768kHz、DSD11.2MHz。それが何を意味するのか詳細は省きますが、数万円クラスのインターフェイスは24bit/192kHz、DSDなし、というのが標準です。そんなこといったってストリーミングも普通は16bit/44.1kHzだよ、と思うかもしれません。でもキャパ10の器に10のものを入れるのと40の器に10を入れるのでは音の余裕がまるで違います。

実際、今回のRME以前に持っていたのはまさに定価3万円ぐらいの24bit/192kHz、DSDなし。ただし大人気でプレミアまでついた機種でした。スピーカーやアンプといった部分はまったく同じでインターフェイスだけこれからRMEに変え、ストリーミングで標準音質の曲を流したところ、まったく別物になりました。ひとつひとつの音の明瞭度、広がり、奥行き…明らかに曲の器がでかくなって


僕はふだんAmazon Music HDを使ってますが、前から話題のROON経由のTIDALやQOBUZも試聴してみました。不思議なことに同じ標準音質でもAmazon Music HDとROONでは音が違うんですね。そういう差もRMEははっきりと知らせてくれた。さらにROONの特徴である“バージョン”で、ひとつの曲に対して異なるサンプリングレートを選んでいくと、ハイレゾになるにつれどんどん音と音のすきまが見えてくる。ふたつのスピーカーの間のどの位置に音が配置されてあるか、より鮮明になってゆく。

これ、ヒップホップやファンクみたいに密集感が気持ちいい音楽には合いません。でもアコースティックなロックや民族音楽を聴くと、前方1メートルに演者が立っているようなバーチャルリアリティーな快感です。


音楽ソースのちょっとした変化を、低価格機ではありえない克明さで伝えるADI-2DAC FS。これは裏を返すと本機自体は高度に無色透明な音だっていうことなんですね。脚色がないから伝達力が高い。DTM用のモニター用なら本機をそのまま使えばバッチリだと思います。一方オーディオ用として使うなら、使い手の好みを反映しやすい機器とも言えます。自分の好みに寄せたいと思ってしたことが、如実に反映するから。

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電源アダプターは、他メーカーのトランス仕様のものに。

僕は本機の電源アダプターを、他メーカーのトランス仕様のものに変えています。さらにそれに付属の電源ケーブルもよりグレードの高いものに変えています。結果、そのままだと音的にもハイテクの極みなADI-2DAC FSがすごくアナログっぽいドッシリとしたサウンドに変化しました。

それなりの値段の機器を使うと、使いこなしに応じて機敏に答えを返してくれるんですね。そう考えれば実に安い買い物だと思いました。特にRMEの場合、ひとつの機種に対しても10年以上にわたってソフトウェアのアップデートを続けてくれるとのことなので、その部分でも盤石です。


で、話は最初に戻ります。今回、ここで紹介させていただいたさまざまな音の変化。元を辿るとこれ、全部1台のコンピュータから発せられたものなんですよね。オーディオインターフェイスというたったひとつの機器を加えるだけで、自分の愛機が大化けする。これ、試してみたらぜったい興奮しますよー!