時間ってなに? 物理学者が教える「時間と時計をめぐる、人類のおもしろすぎる冒険」

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  • author 照沼健太
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時間ってなに? 物理学者が教える「時間と時計をめぐる、人類のおもしろすぎる冒険」
Photo: 伊藤圭


時間って、こんなにおもしろいんだ。

多くの腕時計が精密さや機能性、装飾性を追い求める中、「時を愉しむ」というテーマを掲げてシチズン時計が展開する腕時計ブランド「カンパノラ

その哲学を存分に感じることができる限定モデルが発売されました。

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青漆に金属粉末を練りこんだ文字板で、月明かりが反射して煌めく大海原を表現した「蒼波(そうは)」(写真右)。そして、地表に降り注ぐ満天の星を表現した、漆黒の漆に金色粉を蒔いた文字板が印象的な「皨雨(ほしのあめ)」(写真左)。

宇宙、月、地球を感じさせるこの2つの腕時計を身につけ、眺めていると、自然と「時間」そのものについて考えたくなってきます。

最新の物理学では、「時間」とはそもそもどのようなものだと考えられているのでしょうか?

時間の逆行など、時間をテーマにした映画『TENET テネット』の字幕科学監修などで知られる物理学者の山崎詩郎先生に聞いてみました。

山崎詩郎(やまざき・しろう)

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東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。量子物性の研究で日本物理学会第10回若手奨励賞を受賞。『インターステラー』(2014)を相対性理論で解説する会を全国で100回近く実施、『TENET テネット』の字幕科学監修や『ノーランヴァリエーションズ クリストファー・ノーランの映画術』(玄光社)の監修を務め、東京学芸大学の量子力学と相対性理論の講師にも抜擢される。コマ大戦で優勝したコマ博士の異名を持ち、NHKなどTV出演多数。著書に『独楽の科学』(講談社ブルーバックス)。https://www.kouenirai.com/profile/8007

先生、そもそも時間って何なのでしょうか?

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──そもそも「時間」とはどんなものなのか、定義されているのでしょうか?

それはとても難しい質問です。時間の兄弟に「空間」がありますが、私たちは空間を右にも左にもどちら向きにでも移動できますよね。でも、時間は未来に進むことはできても、過去に戻ることはできないんです。それが日常生活でも物理学でも共通する「時間」についての認識です。

しかし、時間が未来には進むのに過去には戻ることはできない原因はわかっていません。いろんな理論はあるのですが、一つだけ確かなのはコーヒーをこぼしたらそのコーヒーがカップに戻ってくることはないということです。

──「覆水盆に返らず」ということわざにもありますね。

整ったものがごちゃごちゃになると、それが自然と元通りに整うことはありません。そのように「秩序が混沌に向かう」ことを「エントロピーが増える」と言い表すのですが、僕らはエントロピーが増えることを「時間が進む」と錯覚しているだけかもしれないという考え方もあります。

わかりやすく言えば「世界のルール的には、本当は未来にも過去にも行けるんだけど、私たちはエントロピーが増える方向にしか時間が進んでいると認識することができない」という考え方ですね。

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──時間は脳の錯覚かもしれないということですか?

錯覚どころか、そもそも「時間は存在しない」とさえ考える物理学者もいます。

例えば、温度について考えてみましょう。我々は「暑い」とか「寒い」と感じますが、「暑い」「寒い」という「温度」は本当は存在しないともいえるんです。

──えっ?

周りの空気が激しく動き回っている時は「暑い」と感じて、ゆっくり動き回っている時は「寒い」と感じるだけであって、本質は「周りの空気が動き回る速さ」なんです。そうすると、わざわざ「温度」という概念を登場させる必要はなくなってしまうんです。それが、「温度」は存在しないという表現につながります。それと似たように、最先端の物理学者の方々のなかには「この宇宙のもっと根源的な何かの表れを、我々は時間として感じているのではないか」と考えている人もいるんです。

──根源的な何か……。想像も及びませんね。

最先端のさらに最先端の考え方なので、正直、私もまったくついていけていません(笑)。

この世界は3次元? 4次元?

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──私たちがいるこの世界は3次元空間ですが、そこに時間を含めて「4次元」とする考え方がありますよね。実際に物理学では、この世界は「4次元」だと考えているのでしょうか?

はい。4次元です。アインシュタインの「相対性理論」の中には「4次元化」という操作があり、これはもともと3次元でしか定義していなかったものを4次元に拡張して定義し直すということなのですが、それを行うと世界を表す様々な数式がとても綺麗にまとまるんです。僕ら物理学者はより美しい数式を正しいと信じるので「やはり時間は空間の仲間であり、セットで扱うべき数値だ」という確信に至ったというわけです。それが100年近く前の話ですね。

つまり、「縦」「横」「高さ」という3つの数値によって宇宙のあらゆる位置を指定できるように、「時間」という1つの数値によって宇宙の始まりからどれだけ経っているのかを指定することができます。物理学ではそれら空間と時間を合わせて「時空」と呼んでいるわけですね。そして、それは「位置」だけの話ではなく「動き」も同様に表せます。物体が縦・横・高さの方向に動いていたら、運動に勢いがあるといえると思います。それは「運動量」と呼ばれています。もし、物体が縦・横・高さの方向に静止していても時間方向には動いていると考えられるんです。実はこれが「エネルギー」と呼ばれているものなんですけどね。

──「物体が持つ時間方向への動き=エネルギー」? どういうことですか?

例えばここにコーヒーカップがありますが、これが空間を動いていたら勢いがあり、何かにぶつかると衝撃が生まれますよね。しかし、止まっていたとしても、この物質(質量)自体がエネルギーを持っているんです。原子力発電は物質を核分裂や核融合させてエネルギーを取り出す発電方法ですが、その時に莫大な熱を発生させて重さ(質量)がほんのわずかだけなくなる(軽くなる)んですよ。つまり、重さがあるだけで、それは莫大なエネルギーを持っている。私たちはこのコーヒーを飲んでもせいぜい100kcalくらいしかエネルギーを摂取できませんが、実は地球が消えてしまうくらいのエネルギーを持っているんですよ。つまり、物質は一見止まっていても、そこに存在する=時間方向に動いているだけで、すごいエネルギーを持っている。それがアインシュタインによる「E=mc2」という世界で一番有名な数式が示している事実です。

──物質は空間の中で静止していても時間方向には動いているので、その「動き」がエネルギーになっているということでしょうか?

簡単に言えば、そういうイメージです。この宇宙にいる限り、すべてのものが時間方向に光速で動いているとも言えるんです。そして、空間を動くと、時間方向への動きが遅くなるという性質もあります。

──えっ!?

静止していれば光の速さで時間方向へ進みますが、逆に光の速さで空間を移動すれば、時間は止まります。この宇宙に存在するものはすべて光の速さで動いていて、それが空間方向だろうが時間方向だろうが、合計が光速になるという仕組みになっているんですよ。

──時間方向に光速で動いていると考えれば、物質が存在しているだけでとてつもないエネルギーを持っていることに納得がいきます。

我々は普段意識してないのですが、想像以上にすごい世界に生きているんですよ。光の速さで時間方向にタイムトラベルしていて、みんながとてつもないエネルギーを秘めているんです。

最新の研究による「タイムマシン」実現の可能性

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──ここまで現代の「時間」の定義や解釈を教えていただきましたが、これまで科学は「時間」をどのように捉えて今の考えに至ったのでしょうか?

とても良い質問です。100年以上前の人たちは、みんなが同じ時間「絶対時間」を生きていると思っていました。世界中のあらゆる場所で、地球だけじゃなく太陽でも月でも、つねに同じ時間を刻んでいると思われていたんです。というか、むしろ現代でもほとんどの人が時間をそう認識しているし、私も実感レベルではそう思っています。

でも「相対性理論」によって、時間はゴムやこんにゃくのように伸びたり、縮んだりできるものだとわかり、みんなが持っている時計は実は同じスピードで進んでいないことがわかったんです。絶対時間が「相対時間」に変わったこの出来事は、世界の捉え方を激変させる人類史に残る大事件でした。

もちろん、日常生活の中で相対時間を実体験できる人は皆無ですけどね。でも、実際に宇宙で1年ぐらい過ごしたら、地球にいる人より0.1秒ぐらい時計の針が進んでいるというのは実験で確かめられているんです。

──逆に言えば、実感できないだけで、地球上でもみんなそれぞれ別の速さの時間で生きているということですよね。

そうです。最近は光格子時計という非常に精密な時計が作られていて、東京タワーとかスカイツリーみたいな高い建造物でも、上のほうと地上とでは時間の進み方が違うことが計測できるようになっています。東京大学の香取先生という研究者のところでは、高さ1mの差でも重力の違いによる時間の進み方の違いが計測できて、その研究によっては「1秒」の定義が更新されるかもしれないとも言われています。

──「違う時間」といえば「タイムマシン」って理論的には可能なのでしょうか?

未来へのタイムトラベルは「ブラックホールさえあれば可能」で、過去へのタイムトラベルは「ほぼ不可能だが、理論的には可能ではないか」と言われています。

──おお!

重力が強いところでは時間の進み方が遅くなるのですが、ブラックホールくらい重力が強ければ、時間がほとんど止まってしまうんです。そのため、ブラックホールの近くで1カ月過ごせば、宇宙ではもう100万年時間が経っているみたいなことが起こるんですよ。それはある意味で「未来にタイムトラベル」したことになるわけです。つまり、宇宙は未来へのタイムトラベルを禁止してはいないんです。

しかし、過去へのタイムトラベルはそれとは話がまったく違うくらい難しく、基本的にはほぼ不可能です。ただ、細かい話はすっ飛ばしますが、ワームホールを2つ用意してそれらを光速近くで動かし、そこに入ったり出たりを繰り返すことで「過去へのタイムトラベルはできるのではないか」と、映画『インターステラー』の科学監修でもある著名な物理学者のキップ・ソーンが提案しています。ただ、それを実現するには宇宙規模のエネルギーや未知の物質が必要なため、実用は事実上不可能と言っていいでしょう。

「宇宙の主役」は、時間と空間?

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──山崎先生自身は「時間」をどのように捉えていますか?

時間に空間を含めた「時空」こそが宇宙の主役なのではないかと思っています。私も当初は「物質こそが宇宙の主人公であり、時間や場所は舞台に過ぎない」というイメージを持っていたのですが、相対性理論を学んで時間のダイナミズムを知ることによって、「宇宙の誕生=時空の誕生と考えれば、物質は時空の副産物に過ぎない」と、自分の中でイメージが変わっていきました。

──時間を宇宙の主役と考えたことは一度もありませんでした。

物理にはいろんな分野がありますし、自分も時間の専門家ではないのですが、私にとって時間はもっとも好きなものの一つなんですよ。普段、私は腕時計をつけないのですが、その理由も「時間が好きすぎるから」なんです。

──時間が好きすぎて、時計を身につけられない……!?

時計をつけるのが面倒だとかスマホがあるからとかじゃなく、時間が好きすぎて、もはや畏怖するものになってるんです。宇宙が生まれた時に時空が生まれた。だから僕にとっては時計とは宇宙全体なんです(笑)。モノとしては腕時計は好きだし、非常に興味があるんですけど、そういう壮大な理由があって断腸の思いで着けていないんです。

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でも、今回インタビューのお話をいただいて、「カンパノラ」のサイトを拝見したんですけど、宇宙をテーマにした時計だっていうじゃないですか。腕時計って機能性やファッション性、機械としての魅力を訴求しているイメージがありますが、こういうコンセプチュアルな時計もあるのかと驚きました。

──天文学的、宇宙的な要素がある時計ですよね。

人類が発明した最古の時計は日時計だったわけですけど、それって太陽が一定期間で正確に動くから見つけられたんですよね。大昔、世界は本当にぐちゃぐちゃで混沌としていた。その中で唯一秩序立って美しかったものが太陽と月の動きだったんです。そうした「神様がコントロールしている美しい世界」を機械の力で地上に持ってきたものが時計だったことを思えば、宇宙を腕時計にするというのは、時計本来のかたちと言えるかもしれません

──それは最高にロマンチックですね!

カンパノラの新モデルを作る際はぜひ監修に呼んでいただきたいくらいですよ(笑)。例えば、相対性理論を取り込んだ時計とかあったらおもしろいと思うんです。

──どういう時計ですか……!?

一般的な腕時計は精密さが売りですけど、もっと伸び縮みする時間のダイナミックさを感じられるような時計です。実際は正確な時間も刻んでいるけれど、着けている人が走ったり電車に乗ったり、エレベーターに乗って重力がかかったりしたときに生じる時間の遅れを1億倍に拡張して感じられるような……。

──おもしろいです!

今すぐは無理でも、2030年くらいにそういう時計があったらいいなと思いますよ。

時間そのものを身につけるような、「想い」を乗せた腕時計

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山崎先生のお話を聞いて、心底「時間っておもしろい」と思わされました。

そして先生が最後に教えてくれた時計のルーツと、人類が時計に対して抱いていた根源的な「想い」は、これから腕時計を身につけるたびに思い出したくなるものではないでしょうか。

「時を愉しむ」というテーマを持つ腕時計ブランド「カンパノラ」の限定モデル「蒼波(そうは)」と「皨雨(ほしのあめ)」は、そんな「時間」と「空間」を腕にそのまま身につけられるかのような腕時計です。

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カンパノラ グランドコンプリケーション20周年記念限定モデル

左:皨雨(ほしのあめ)AH4086-05E 517,000円(税抜価格470,000円)

右:蒼波(そうは)AH4086-13L 506,000円(税抜価格460,000円)

特定店限定モデル各限定120本

星空や、月が映る波間など天体にまつわる事象や風景をイメージしてデザインされたという文字板は、一点一点が職人の手作業で仕上げられており、まるで時間が凝縮してできた宝石。

身につけて楽しむ、眺めて楽しむのはもちろん、「時間」そのものに想いを馳せて楽しむこともできる、至極の一本です。

「カンパノラ」ブランドサイトはこちらから。

Source: カンパノラ