ネタは揃った。
ARが話題になり始めてからもう何年経ったでしょうか? Google Glassは失敗したとはいえ、もう10年も前に存在してたのに、その後これっていうARグラスは実現してません。
でも、米GizmodoのKyle Barr記者は、今年のCESでいろんなARグラスやその技術の進化を見て、確かな手応えを感じたみたいです。以下、Barr記者からどうぞ!
Z-Lensが見せたARの着実な進化
CES 2023開催中、テック企業がメディア記者に対しプロトタイプのお試し用に用意した部屋で、僕は多くを期待してませんでした。そこではイスラエルを拠点とするLumusという会社が、ARグラス開発企業向けに2Dの「Z-Lens」アーキテクチャを発表してました。
Lumusはまず、古いウェーブガイド式のメガネのデモをひと通りやってくれて、次に最新のレンズ技術を搭載した軽量なモデルを試させてくれました。
僕は3Dの飛行船の動画と、Pixarの『カールじいさんの空飛ぶ家』を見たんですが、すぐ飽きてしまいました。単なる画質のデモでしかなかったからです。それでもちゃんと見ていると、映像のリアルさがはっきり見えてきました。
16:9の画質はとにかくしっかりしてます。鼻の上では、今までのヘッドマウントディスプレイのような大きさも感じません。とはいえ、映像はWi-Fiじゃなく有線でデバイスから送られてるし、画面サイズは50インチしかありません。「これを80インチに近づけようとするとフレームレートが落ちるかも、可能だけど」と言われました。
Lumusのマーケティング担当副社長、David Goldman氏によれば、彼らは大手テック企業と交渉中で、でも、相手先は教えてくれませんでした。Lumusにとって大事なのは、2024年末または2025年までには、ARグラスの大規模リリースがあるってことです。
もちろん彼らの目的は製品を売ること、そのためのハイプを作り出すことなので、Lumusの人の言葉をそのまま受け取るべきじゃないかもしれません。
でも、CES 2023には、より有能で装着しやすいARグラスを作るためのパーツが、バラバラながらもすべて揃っていました。複数のUI構造を表示できる程度に視野が大きくなり、普通のメガネのような外観にできる程度に軽くなり、画質も眼福といえるくらいに向上しました。

Image: Kyle Barr - Gizmodo US
なんか既視感ある
いつかもこんな道を通ってきました。2013年にはGoogle Glassがアツかったけれど、話題になればなるほど、疲れ目やプライバシーの問題(Google Glassで隠し撮りする人は「グラスホール」ってよく言ってました)が取り沙汰されるようになりました。
2015年にはもうGoogle Glassは消えてしまいましたが、その後Google Glass的なものを復活させる動きがたくさんありました。2018年にはVuzix Bladeがあり、こちらもウェーブガイド式レンズを使ってましたが、うまくいきませんでした。今は同じタイプのレンズが改善されたものを、大手ARグラスメーカーが選ぶのかもしれません。
MetaはまだFacebookと呼ばれてた2021年、カメラ付きのRay-Banサングラスをリリースしました。そこにはマイクとスピーカー、左右1つずつのカメラ、アームのタッチセンサーコントロールが搭載されてました。このRay-Banサングラスを使ってる人も実際ほとんどいませんが、タッチコントロールというパーツは、次世代のARテックの中で使われつつあります。
AR技術パーツが集結してたCES
TVやスマホで知られるTCLは、ARとXR、VRのチームをCESに派遣し、いくつかプロトタイプを展示してました。たとえばRayNeo X2 ARグラスは、フルカラーのmicro-LEDディスプレイをQualcomm Snapdragon XR2のプラットフォームに組み合わせたもの。
Facebook Glasses同様、タッチ操作でタブを切り替えて操作し、フルカラーの画質は若干低いものの、その分カメラの質とリアルタイム翻訳機能で埋め合わせてます。翻訳は英語・中国語だけでしたが、TCLの人たちが僕に中国語で話しかける内容を、ざっくりながらちゃんと英語にしてくれました。
別の会社のXRAI Glassは、会話にリアルタイムでキャプションを付けるデモをしてくれましたが、それはGoogleが去年のキーノートで言ってた機能そのものです。音声からの文字起こし機能は、会話を遮らずに内容を確認できるので、ARグラスのメジャーな売りポイントになるかもしれません。
Graffityという会社による、触覚グローブ不要のフィンガートラッキングを使ったARゲームも面白そうでした。とはいえ、展示されてるゲームではフィンガートラッキングをちゃんと使いこなせてませんでした。他には3Dを謳うものもありましたが、視野は45インチしかありませんでした。でも、とにかくまだまだ伸びしろがあります。
誰がどう答えを出すのか
これだけ有望な要素にあふれたARグラスですが、やっぱり大手テック企業のサポートなしにはメジャーにならないと思われます。そこで頼りになるかもしれないのがAppleです。以前AppleはVRよりARに入れ込んでるように見えました。同社のティム・クックCEOは、「ある時点、ずっと未来に行って過去を振り返ったら、ARなしでどうやって生活していたのかと不思議になるでしょう」と発言してました。
こんな話題も、ただ業界内で盛り上がってるだけでしょうか? 「メタバース」もかつて同じような道を通ってきました。それとも、より多くの人がメガネの中で映画を見たり、本を読んだりしながら歩きたいと思うのでしょうか?
Google Glassはプライバシーの問題で頓挫しましたが、AppleやGoogleといった企業は(またもや)ARグラスを大きな市場に提供しようとしています。我々は10年前の議論を繰り返さなきゃいけないのでしょう。問題は誰がそれをやるか、過去に議論された点にどう答えを出すかです。この10年で人間も変化したから、メガネに隠しカメラが付いててもOKとなったでしょうか? 問題はそれだけじゃありません。運転中にARグラスで気を散らさないために、どうしたらいいでしょうか?
Google Glass以来、テック企業にはその答えを考える時間がたっぷりあったはずです。でも、スピードを重視する彼らのことだから、今回もまた「グラスホール」の話を蒸し返さなきゃいけないのかな…。