人類対機械軍の戦いは『ターミネーター』とは違う形ですでに始まっている気がする。
2022年の終わりごろから、SNSにAIで作成したという絵が頻繁にアップロードされるようになったのは記憶に新しいでしょう。絵師さんたちは、生身の人間が丹精込めて描いた作品をAIがコピーして作成している、と声をあげて訴えていましたよね。AIのアートは、イラストだけでなく、本や音楽にも影響を及ぼしています。
そして今、その波は声優にも押し寄せてきています。
広がる混乱と不安の声
先日Motherboardに、ゲーム声優が、声生成AIに“声の権利を渡す“という契約書にサインさせられそうだ、という記事が掲載されました。
すでに、そういった文言が含まれた契約書にサインしてしまった人もいるとのこと。サイン後に文言が組み込まれていたことを知った、なんて人もいて混乱が起こっているようです。この契約により、AIが声優の仕事を奪ってしまう可能性が出てきました。新たに声優の仕事に就きたい人たちにも不安の声が広がっています。
AI生成の声が与える影響
『Apex Legends』で知られる声優のFryda Wolffさんは、Motherboardに対し、AIで生成された声がゲーム開発者やアニメーションスタジオとの付き合いがある声優や、適切な報酬額にどんな影響を与えるのか話しています。
「AIに声を提供することで生成されるパフォーマンスを使用し、私の“肖像”に対して補償もせず、さらに私のエージェントにそのことを知らせることもなく搾取することができる」
また、Sungwon Choさんは、「生身の人間のパフォーマンスと生成されたパフォーマンスが同等であると示すのは技術に対して失礼なのでは。声のように聞こえるだろうし、感情も捉えているように聞こえるかもしれません。しかしそれは空虚で偽物でしかないのです」と書いています。
他にも、ベテラン声優のSteve Blumさん、Kara Edwardsさん、Stephanie Shehさんも、Twitterでファンに向けて、AIボイスアプリに自分たちの声が使われていたら教えてほしい、と伝えています。
Hey friends, I know AI technology is exciting, but if you see my voice or any of the characters that I voice offered on any of those sites, please know that I have not given my permission, and never will. This is highly unethical. We all appreciate your support. Thank you.
— Steve Blum 🔜 Collect-A-Con Orlando (@blumspew) February 11, 2023
「AI技術が楽しいのはわかっています。しかし、私の声や私が声を吹き込んだキャラクターがサイトにアップされていたら、それは私の承諾を得ていないということを覚えておいてください。今後も許可しません。これは非常に非倫理的です」
同意が必要な理由
AIアートや音声の懸念事項のひとつが、アーティストへの同意確認や承諾の有無です。AIに作品が使われているアーティストの多くが、無断使用されていたり、明示的に同意を求められていなかったりします。
俳優のSarah Elmalehさんは、Motherboardに対して次のように主張しています。
「同意は必須です。役に同意したものの、録音ブースに入って脚本を見たときに、問題箇所があると思って不快感を表したらどうなるでしょうか? (中略)通常、その問題箇所を読むのを拒否できます。自分たちの声が使われるのを防ぐためです。この技術は、明らかにそれを完全に回避しています」
AIの会社に声を提供する声優さんと、このテクノロジーを喜んで使うNetflixなどの企業がいる限り、AIはエンタメ業界の一部になっていくことでしょう。でも、芸術の世界がAIだらけになってしまったらつまらない。なんていうか、『マトリックス』の世界観のようですが、娯楽を供給されているような感覚を覚えます。