致死率90%の脳食いアメーバ感染症。まさかの薬で助かった男性

  • 15,481

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …
致死率90%の脳食いアメーバ感染症。まさかの薬で助かった男性
Image: Centers for Disease Control and Prevention via Gizmodo US

脳食いアメーバ、って字面が強すぎる。

昔からある尿路感染症治療薬に、とんでもない力が秘められているかもしれません。

これまで発症したら致死率90%と恐れられていた「脳食いアメーバ」の感染患者にこの薬を使用したところ、効力があったとカリフォルニア州の医師が報告しています。

鼻や皮膚から入り、脳炎を引き起こす

脳食いアメーバ(バラムチア・マンドリルリス)は単細胞の自由生活型アメーバで、自身より小型のアメーバをエサとしながら、土中や水中のいたるところに生息しています。

1980年代後半、マンドリルの脳内ではじめてその死骸が発見されました。1993年にはアメーバの別種であることが確認され、非常に稀ですが、人間に深刻な脳感染症を引き起こす恐れがあることが判明しました。

アメーバは鼻や皮膚の傷口から体内に入り、最終的には血流に乗って脳に到達し、「肉芽腫性アメーバ脳炎(GAE)」と呼ばれる症状を引き起こします。「脳食いアメーバ」というと脳を食い荒らすような印象がありますが、炎症そのものは私たちの免疫反応によるもの。

潜伏期間が長く、発熱や頭痛、発作、異常行動といった症状が出るまでに数年かかることもありますが、いったん発症すればその致死率は約90%に達します

ただ、マンドリルリスによるGAEは非常に珍しく、これまで世界中で200例ほどしか報告されていません。しかし、健康な免疫系を持つ人も含め、誰でも罹患する可能性があります。

試行錯誤の末、投与した薬に効果あり

今回紹介された症例は、先月Emerging Infectious Diseases誌に詳述されています。2021年8月、54歳の男性が発作を起こして北カリフォルニアの病院に運び込まれました。

MRI検査ですぐに左脳に腫瘤と腫れが見つかり、初期治療を受けたのちに米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医療センターに移送されました。当初の検査では「細菌や真菌が原因ではない」と診断され、男性は一旦退院します。

しかし、不審に思った医者らは、病変部位の組織を観察する生体組織診断を実施。そうして初診から約1カ月後、ようやくマンドリルリスの陽性反応が出たため、男性はすぐに再入院することになりました。

MRIで新たな脳病変が発見されため、GAEに対する唯一の標準治療である、抗菌剤による長期併用療法がスタート。当初は病変が小さくなり、改善されたように見えましたが、薬の毒性が強すぎることから治療続行不可能に。

医師らが有効かつ安全な薬剤の組み合わせを探しましたが、無情にも患者の状態は再び悪化し始めます。

医師たちは他の選択肢を求め、必死に医学文献を探し回りました。その結果、ニトロキソリンという薬が有効であることが判明。

この男性患者が初めて病院を訪れてから約100日後、家族と食品医薬品局(FDA)の許可を得てニトロキソリンが投与されました。

投与開始直後は腎臓にトラブルがありましたが(おそらく薬とは無関係)、徐々に改善。1週間後には、脳の病変が減少し、最終的に退院することができました。

素早い診断と薬の備蓄が課題

このニトロキソリンは新しい薬剤ではなく、尿路感染症の細菌を殺す薬として長年使用されてきました。

現在アメリカでは市販されていないため、『サイエンス』誌の記事によると今回は中国の製薬会社から供給されたらしいです。こちらの会社では、ニトロキソリンの「膀胱癌治療薬」としての可能性を研究しているそう。

このような稀な症例をできるだけ早く診断し、症状が進行する前に薬を投与できるように、今は新たなスクリーニング技術の研究がすすめられています。今回治療にあたったUCSFのスタッフも、その研究に協力しているんだとか。

この男性患者は、途中で複数の合併症に見舞われたものの病巣は縮小を続け、「ほとんど回復した」と医師は話しています。

彼は今もニトロキソリンを含む複数の薬を服用していいますが、外来担当医師チームは1年以内にこれらの薬の処方を終了する予定です。

USCFによれば、彼らはすでに他の医師と協力して「脳食いアメーバ」の2例目をニトロキソリンで治療し、初期治療の結果は良好だといいます。彼らは疾病管理予防センターを説得し、この薬を緊急用として現場に備蓄できるようにしたいと望んでいるそうです。

筆頭著者であるUSCFの感染症医師兼研究者のナターシャ・スポティスウッド氏は「私がいた場所には、この病気の患者一人一人を助けたいと必死になっている医師チームがあります」と『サイエンス』誌に語っています。

ガジェットを飲み込んで便秘を改善

辛い便秘に新しいアプローチが開発されました。その名も「振動ピル」。薬型の振動するメカを飲み込んで、物理的に揺り動かして出しちゃうという方法です。

https://www.gizmodo.jp/2023/02/vibrant-pill-for-constipation.html