ChatGPTなどのAIツールは非常に便利です。それに目をつけたマイクロソフトは、Googleの検索エンジンを凌駕する「回答エンジン」を発表しました。AIの進化にワクワクする一方、火蓋が切られたAI競争のその先には核レベルの危機も潜んでいそうです。
ChatGPTの驚き

ChatGPTとは無料で使え、命令すればいろんな文章を生み出してくれる、超絶便利な対話型AIサービスです。SiriやGoogle アシスタント、Alexaとは比べ物にならないくらい賢くて、本当にびっくりしました。

「空と海はどうして青いの?」「パソコンにできてスマホにできないことはなに?」といったふわっとした質問に答えてくれます。
ほかにも「こういう機能のプログラムを書いて」「僕の考えたストーリの続きを書いて」「北海道で3日過ごすから旅程を考えて」といったお願いもでき、代わりに考えてもらえます。
あるいは「面接の練習相手をして」「猫人間として話相手して」と言えばロールプレイもできます。どんな人も演じられるスーパーマンとチャットしている気分です。
ChatGPTでマイクロソフトの検索サービスが超強化

ChatGPTを開発したのはOpenAIという研究所です。イーロン・マスクも設立に関わっています。OpenAIは今、マイクロソフトと仲良くしています。
2月の頭にはマイクロソフトの検索エンジンBingが超絶進化し、ChatGPTみたいな機能が使えるようになりました。
たとえば、「この新しい車欲しいんだけど、今の車と比べてサイズ感どう違う? メリット・デメリットもまとめて」と命令すれば調べてくれます。
マイクロソフトのWebブラウザ Edgeも進化しています。ウェブサイトの内容を要約してくれたり、メールの文面を自動的に書き出してくれたりします。
元祖AI企業Googleの動向
これに超絶焦っているのがGoogleです。検索は便利ですけど、すぐに答えが欲しいのにリンクをクリックして読まないといけないのはめんどくさいですよね。
その点、Bingはもはやただの検索エンジンではなく、すぐに答えてくれる「回答エンジン」と呼べるものに進化しています。もっと手っとり早いわけです。
Googleは「ググれ」が「ビングれ」になっちゃうのが怖いんです。
Googleの対話型AIがChatGPT/Bingを超えてきそうな理由

そこでGoogleも、「Bard」というAIを公開する準備を進めています。そしてこれはおそらくですが、いずれChatGPTやBingさえも凌駕する回答エンジンになるんじゃないかなと思います。
というのも、そもそもChatGPTを可能にしたテクニックは、Googleの研究者が2017年に公開したTransformerが元になっているからです(GPTはGenerative Pre-trained Transformerの略だったり)。社内の開発力の点ではGoogleに分がありそうじゃないですか?
また、AIを動作させるプロセッサの性能でも、Googleに分がありそうです。ChatGPTやBingはマイクロソフトのクラウドで走っていますが、その中身の多くは市販のプロセッサが多いみたいです。対するGoogleのクラウドにはAIに特化したTPUというプロセッサが組み込まれています。

そしてなんといってもGoogleは検索の王者です。これまで取り扱ってきた情報の量も質も、マイクロソフト以上なはずです。AIの性能は、データの量と質に大きく左右されます。
2022年にはGoogleの社員が「うちのAIに魂が宿った」と世間を騒がせたこともありました。
これらを踏まえると、GoogleはChatGPTレベルのAIをすでに社内で開発済みだったと思われます。
それでもGoogleがChatGPTのようなAIサービスを公開しなかったのは、危険性や正確性といった理由もあるでしょうけど、検索ビジネスを危機に晒すからだと思います。検索エンジンで十分儲かっているのに、どう収益化すればいいかわからない回答エンジンを展開するのは、リスクが高すぎますよね。
対話型AI競争は何を生むか?
動かなかったGoogleに対して、OpenAIとマイクロソフトが動いた。これからどうなるかを考えると、身震いがします。
言葉を扱うAIは急激に賢くなっている

元々、言葉を取り扱うAIは、それほど賢いものではありませんでした。いくつか質問を続けると、前に聞かれたことを忘れてしまったりしたんです。
それをTransformerがある程度解決できたんですが、世界を驚かせたのはその次の展開です。GPTのPはPre-Trainedという言葉で、これはAIの地頭をよくするステップを指します。大量のテキストデータを読み込ませて、そこから言葉遣いのパターンを覚えさせます。「I have a」のあとは大体「pen」が来るよね、っていうのをAIに把握させていくんです。
学習で地頭がよくなったAIとさらにやりとりを繰り返します。いまの答え方はよかった、悪かったとフィードバックを伝えることで、経験を積んだAIはさらにお行儀良くなっていきます。
驚くべきは、AIの規模を大きくしたり、Pre-Trainingのステップで与えるデータを増やしたら、AIの賢さが予想以上にアップしたことでした。液体の水を100度を超えるまで温めると気体になるように、、規模とデータ量を大きくしていったら、いきなりキャラが変わったように賢くなったんです。
しかもですね、AIはまだ賢くなり続けているんです。GPTは公開されているものだと3世代あって、初代の規模を1とすると、2代目は約13倍、ChatGPTの元になっている3代目は約1,500倍、GoogleのPaLMは約4,500倍です。そしてBingの裏にあると噂の4代目は、数10万倍を超えるんじゃないかと一部に騒がれています。今後どれほど賢くなっていくかわかっている人はたぶんいません。
シンギュラリティに到達?

ここで思い出すのが、ネズミは素数を理解できないという話です。ネズミは奇数と偶数(2で割り切れるかどうか)を区別できるという説があります。この話には続きがあって、素数(1とその数字以外でしか割り切れない)はいつまでたってもわからなかったそうです。
人間は素数もわかりますよね。おそらく、生物の進化の過程で人類の賢さは、水が沸騰して水蒸気になったように、生物界のなかでいっこ抜きん出たレベルに達したはずです。
そして水蒸気にもっともっと熱を加えたらプラズマになります。もし人間がさらに進化できたら、プラズマレベルの賢さになるのでは?
身震いするのがここなんです。人間は進化を繰り返してとてつもなく賢くなっていますが、今の水準に辿り着くまで、何千万年という時間がかかりました。人類誕生から数えても約500万年です。
でも、AIの研究は始まってから70年と経っていません。ムーアの法則にあるようにプロセッサの処理能力の上がり方は指数関数的だと考えられていますが、AIの計算資源の使い方は、それを超えるスピードでアップしているそうです。
それを踏まえると、GPTのようなAIの賢さは人類の進化のスピードをブッチ切る早さで、人間を遥かに超えてしまう可能性もあるのでは…?と思えてきます。
奇数偶数素数はわかるけど、P≠NP予想がわからない人類は、P≠NP予想やナビエ–ストークス方程式の解がわかるAIに圧倒されるでしょう。

こういった恐怖をAI研究者も抱いています。ChatGPTを作ったOpenAIのCEO、Sam Altmanさんはウイルス兵器、核戦争、そしてAIの危機に備えるために、カリフォルニアに大きな土地を買ってガスマスクや銃を備えた拠点を持っているそうです。GoogleのDeepMindでAIを開発しているDemmis Hassabisさんも、AIはそろそろ人類に危機を及ぼすレベルに到達しつつある、と警鐘を鳴らしています。
最初の核爆弾は、マンハッタン計画によってたった3年で完成するに至りました。今進行しているのは、AIのマンハッタン計画なのかもしれません。核物質を規制するように、AI用のプロセッサを規制すべきという意見も出てきています。
AI技術の開発をどのように進め、どうコントロールするか。真剣に考えるべき時がきている気がします。