ネアンデルタール人、巨大ゾウを倒して2500食をゲットする生活

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  • author Isaac Schultz - Gizmodo US
  • [原文]
  • Akane Ueno/Word Connection JAPAN
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ネアンデルタール人、巨大ゾウを倒して2500食をゲットする生活
Photo: Lutz Kindler, MONREPOS

これまでゾウの骨と石器がいっしょに見つかるたびに、研究者の間では「初期人類やヒト族が大型の哺乳類を食糧としていたんではないか」という憶測が広がっていました。 今回、研究チームにより、ヨーロッパに生息していたネアンデルタール人がゾウを狩猟し組織的に解体したあと、集団の数カ月分の食糧として保管していたという新事実が判明。2月1日号のScience Advancesに掲載されました

オスのアンティクースゾウ(死亡時推定50歳)のかかとの骨に残された傷あと
Photo: Wil Roebroeks, ライデン大学

発見された骨は絶滅したアンティクースゾウ(Palaeoloxodon antiquus)のもので、その大きさはなんと、現存する陸上哺乳類の中で地上最大のアフリカゾウの約2倍。1920年代初期には、ネアンデルタール人が動物を落とし穴の罠を使って狩猟していた証拠が発見されたほか、1948年には25個もの火打石や木製の槍の近くでネアンデルタール人の骨が見つかっています。

狩りがされていたことが判明したといっても、定住して狩り場を作っていたことまではわかっていませんでした。今回の研究は、その両方の証拠となり得るものだそうです。

社会的、認知的に重要な発見

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復元されたアンティクースゾウの成体オスの横に立つ、今回の研究の筆頭著者、Sabine Gaudzinski-Windheuser氏。身長5.3フィート(約160cm)。Photo: Lutz Kindler, MONREPOS

この研究の共著者で、オランダのライデン大学で考古学者を務めるWil Roebroeks氏は、米Gizmodoの取材に対し「この痕跡から、ネアンデルタール人は少なくとも一時的に、子どもを含む20人以上の集団で群れをなしていた可能性があることがわかります。これはその地域に生息していた集団のなかでも最大規模です。また、大規模な食糧を保存するための文化的手段を持っていた可能性も伺えます」と語っています 。

また「どちらにせよ、この2つの可能性は、社会的にそして認知的に重要な発見です。以前の研究ではここまで詳細に把握できなかったネアンデルタール人の行動範囲を理解する、大きな手がかりとなったことは間違いありません」と述べています。

解析された骨は、ドイツ中部にあるノイマルク・ノルト遺跡で1985~1996年にかけて発掘されたものです。当初の考古学チームは合計3,122個のゾウの骨を発掘、これはゾウ70頭分に匹敵します。今回の研究ですべて、解析されたようです。 変わった形の骨からアンティクースゾウの全身骨格まで多岐にわたり、内臓が保存されたものもあったというから驚きです。

見えてきたヒト族の活動

新研究チームの話では、これらの骨からはヒト族がどのような活動をしていたかを表す証拠が数多く示されているとのこと。傷あとからは、ヒト族が骨から組織を切り取っていることがわかり、頭蓋骨の傷あとからは、ヒト族がゾウの脳みそに到達できるように頭部を体から切り離していたことまでわかっています。

Wil Roebroeks氏によると、「10トンのゾウからどのくらいの食糧が確保できるか、計算をしてみました。その結果、最低でも、ネアンデルタール人の大人2,500人分の1日の食糧に相当する分量でした。ノイマルク・ノルト遺跡で発見された最大サイズはこれよりも大きいものです」とのこと。

これまでネアンデルタール人は無骨な獣と言われてきましたが、初期人類に近い存在だったことが想像できます。狩りをして、食べて、行動するその姿はヒト族にそっくりで、ホモ・サピエンスと交雑することもあったほどです。ネアンデルタール人は約4万年前、ホモ・サピエンスによりついには絶滅に追い込まれました。ですが今日、私たちのDNAにはネアンデルタール人の遺伝子が受け継がれています

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太古のゾウの大腿骨を調べるGaudzinski-Windheuser氏。Photo: Lutz Kindler, MONREPOS

自分たちの行動を理解してた?

ここで重要なことは、今回の研究やヒト族が狩りに道具を使っていたことが判明した以前の研究で発見されたゾウは、圧倒的にオスのものが多かったということ。これは、ネアンデルタール人がゾウの死体を拾い食いしていたのではなく、ゾウを狩っていたことを裏付ける重要な発見だそうです。

もし食べていたのが死体なら、病気や栄養失調で死んでしまったか、群れから離れてしまった年老いたゾウや若いゾウのはず。アンティクースゾウのオスの成体は、 現在のゾウのオスの成体と同様に単体で行動すると考えられ、 群れで生活するメスよりも狩りの標的になりやすかった、と研究者は考えているようです。

テュービンゲン大学のゼンケンベルグ人類進化・古環境センターの考古学者、Britt Starkovich氏はこの研究に関連する論評で次のように書いています。

「どの動物をどこで狩猟するか、どうやって攻撃をするかなど、ネアンデルタール人は自分たちの行動についてしっかりと把握していました。さらには、大型動物を解体するのは骨の折れる作業になること、そのかわり大きな肉を確保できることまで理解していたのです」。

研究チームによると、遺跡に残された剥片や炭化種子など、ネアンデルタール人に関連する発掘されたものから、人類の直近のいとこにあたる彼らがここに2,000年間ほど定住していた可能性があるそう。

ということは、何世代にもわたってこの土地を狩り場として定住し、巨大ゾウを倒し、集団の規模によっては数週間分となる食糧を確保していたということもあり得るということです。

ネアンデルタール人が、有能で発明の才に恵まれていた種族であったことはすでにわかっています。ですが、10トンものゾウをどうやって実際狩っていたのか、今後新たな手がかりが遺跡から見つかったらと期待に胸を膨らませながら、筆者はランチに行ってきます。ネアンデルタール人はどうやってお肉を調理したのかな。