充電スタンドは、だれでもどこでもどんなメーカーでも充電できないと。
米政府の補助金がもらえるのは全EVメーカー対応で米国産の充電設備だけ。Teslaしか充電できないものはダメよ。そんな新たな規制が、2月15日に米運輸省から発表されて即時施行となりました。
来年末までに少なく見積もってもTeslaの充電スタンド7,500基が全EV対応になると、14日にホワイトハウスのインフラ調整役Mitch Landrieu氏は報道陣に説明。翌15日にはTeslaからも発表があって、最大出力250kWの急速充電スタンド(スーパーチャージャー)3,500基と、レストラン・宿泊施設付属の充電スタンド(デスティネーションチャージャー)4,000基を他社製EVに開放することを正式に明らかにしました。
CCSアダプタで対応か
Teslaはこれまで住宅に設営するEV充電器については、日米充電器規格J1772に対応するものを出していますが、「USスーパーチャージャー」と「デスティネーションチャージャー」についてはTesla独自規格オンリーでした。アダプタもなくて、Tesla以外のEVはまったく充電できなかったので、非TeslaのEVオーナーにとっては願ってもない話ですよね!
既存の充電設備については、かねてからイーロン・マスクが公言しているように、コンバインド・チャージング・システム(CCS)を加えることで対応する展開になりそうです。
7年でEV充電スタンドを10倍に増やす計画
バイデン政権は、2030年までに新車の半分をEVにすることを地球温暖化対策の柱に掲げています。そのためには充電ステーションの整備が急務というわけで、超党派インフラ整備法のもと、EVチャージャーを全米に整備する計画に75億ドルもの予算を割いています。
このお金で米運輸省が2030年までに敷設を予定しているEV充電スタンドは、全米で50万基(実現すれば今の10倍くらいに増える)。高速道75,000マイル(約12万km)以上をEV対応にすることで国内製造業を活性化し、国産EV革命を推進していく計画です。
充電網整備は米国産優先
今後は同法を通して資金援助されるEV充電スタンドはすべて国産で、「鉄鋼製のエンクロージャーやハウジングはすべて最終的な組み立て作業と製造プロセスすべてを米国内で行なう」ことが援助の要件になるほか、2024年7月までには「全パーツの最低55%が国産」という要件も加わるみたい。
さらに充電方法は「予測可能で安定的」でなければならなくて、プラグ種別・出力ワット数が普遍的で、充電稼働率が最低97%であることや、充電設備はドライバーがすぐ見つけられる立地に整備すること、アプリやアカウントを何個も使い分けなくても利用可能でなければならないことなども基準に盛り込まれました。
補助金を餌にTesla充電規格の開放を狙う
バイデン政権の狙いはあと1つ、米最大の充電網を抱えるTeslaを独自の充電規格から開放し、Tesla以外の車でも充電できるようにすることです。
Teslaにしてみればせっかく自社規格の充電網を整備して車を売っているのに、共通規格になってしまうとそれ目当てでTesla車を買うメリットがなくなっちゃう懸念もありますが、独自規格で他社すべてを敵に回して政府と争っても勝ち目がないと判断したんでしょう。
政府の充電スタンド網に乗ることで、Teslaはニューヨーク州バッファローでの充電器製造数を今の倍に増やさないと追いつかないくらい忙しくなるとホワイトハウスは言っていることですし、win-winなのかもしれません。
Teslaは補助金で何度も助かってる
イーロン・マスクCEOはアンチ補助金の発言で知られますが、実のところ氏の会社は、政府の補助金や公共事業契約がなかったら今ごろは存在しない会社ばかりです。
Tesla、SolarCity、SpaceXの3社が受け取った補助金は2017年のLA Timesの推計で49億ドル(約6574億円)。今はもっと。カリフォルニア州に散々文句を言ってテキサス州にTesla本社を移転した割には、カリフォルニア州からもらった補助金は、2009年からのべ32億ドルを超えています(知事室推計)。
特に実入りが大きいのが、二酸化炭素排出ゼロの車(つまり電気自動車)を製造すると州や政府からもらえるクレジットです。これをガソリン車製造メーカーに売って得た利益は、GRIDが昨年4月に調べたら通算60億ドル(約8046億円)でした。排出クレジットの売却益で四半期の赤字を黒字に転換したことも2度あったことが、Trefisの分析でわかっています(2020年上半期)。
これだけ旨味のある補助金に他社が目を付けないわけはありません。フォードは2024年1月までに2,000店近い直営ディーラーに公共の急速充電スタンドを敷設すると宣言しましたし、ゼネラルモーターズも従来の計画を大幅に拡大して2026年までにレベル2の公共EV充電スタンドを最大4万基敷設する構え。
レンタカー大手Hertzも、来年末までにレンタカーの4分の1をEVに切り替えて、12の主要都市の店舗でEV充電スタンドを整備する計画とのこと。バイデン政権の気象変動への取り組みもいよいよ正念場ですね。
まあ、EVにはEVなりの問題があって、再エネ移行に必要な鉱物の過半数が先住民の土地にあって生活がおびやかされたり、脱ガソリン車でチリのフラミンゴが危機だったり、EV普及で銅不足はもはや避けようがなかったり、バッテリーに必須のリチウムとコバルトが米中資源争奪戦の火種になったり、貧困層居住域の充電網が後回しになったりといったエグイ面もあるし、バッテリーの劣化で使い捨てみたいになったらグリーンと呼びきれないところもあります。
1人1台のマイカーをEV化することを国策にするくらいなら、バス・電車・徒歩で間に合う街づくりが先決と思わないでもありません。そんな慎重姿勢も忘れずに見守っていきたいです。