さまざまな分野の難題に立ち向かったプロジェクトを称える2023 Gizmodo Science Fair。入賞プロジェクトの1つに選ばれたのが、ガラス瓶をリサイクルし、米ルイジアナ州の海岸を回復させるために活用しているGlass Half Fullとテュレーン大学の研究者たちの活動です。
課題
ニューオーリンズでは、ガラス瓶はゴミとして廃棄されています。そこでガラス瓶をリサイクルするプロジェクトの立ち上げと、リサイクルでできたガラス砂を侵食の進む沿岸の回復や防災用の土嚢として活用できないかと考えました。
プロジェクトの成果
プロジェクトが始まった2020年初め、Glass Half Fullのチームは、一度にガラス瓶1本しか粉砕できないような小さな機械を所有していただけでした。それが今では日に数千本を処理できるようになり、チームの研究は砕かれたガラス瓶からできた砂をルイジアナの海岸線に足しても安全であると示しています。
湾岸諸州はハリケーンと海面上昇によって悪化した侵食に苦しんでおり、アメリカ地質調査所(USGS)は1932年から2016年の間に、同州が約2000平方マイル(5195平方km)の土地を失ったと推定。その面積は、ロードアイランド州を越えるほどの大きさになります。
ニューオーリンズはガラス瓶を含むいくつかのリサイクルできる資源の回収を行なっていないため、そういった品目のほとんどが通常のゴミとして処理されます。それを資源の無駄として許容できなかったのが、Glass Half Fullです。共同設立者のFranziska Trautmannさんは、「埋め立て地に送られているあまりにも多くのガラス瓶を、私たちは有効活用できたんです」と言っています。
粉砕されたガラスは侵食された海岸線の回復に加え、災害対応のための土嚢作りにも活用できます。チームは、粉砕ガラスをアクセサリーのビーズとして転用するため地元のガラス吹き職人とも提携しています。
昨年春には、ガラス瓶から作られた砂を使った沿岸再建の1回目となる実証実験を敢行。Trautmannさんとボランティアたちは、ラフォーシェ郡とテレボーン郡に住むPointe-au-Chien部族との共同作業で、沿岸に1万2000ポンド(約5.4トン)もの再生ガラス砂を加えました。
実証プロジェクトの1つでは、砂中にガラス砂利を敷いた排水路を設置して現地の植物を植栽。昨年の6月には、ニューオーリンズの北にあるビッグ・ブランチ・マーシュ国立野生動物保護区でも似たような実証実験を行なっています。
10月に保護区を再訪したTrautmannさんは、黄麻布が分解され堆積物が積み上がり、リサイクルガラス砂に植えられた植物がまだ生きているのを確認し、「両方のプロジェクトがうまく行ってる」と言っていました。
活動する理由
Glass Half Fullの共同設立者Max Steitzさんは、「結局、誰も対処する気はないんだと気付いたからです。市も州も対処するつもりはなく、どこかの大企業も対処するつもりがないならやってみよう。自分たちで試してみるかってね」と説明。「地域経済にグリーンな雇用を生み出せることにもなります」と述べていました。
「あまりにも多くのガラス瓶が埋め立て地行きになっていて、私たちは有効活用できた。その方法を考え出せてうれしいです」と、Trautmannさん。「正直言って、こんなにも多くの人が気に掛けるとは思っていませんでした。ニュースやTikTokがバズるたび、情熱とやる気が再び湧き出ました」とコメントしています。
テュレーン大学の学生で研究者のElizabeth MacDougalさんは、「ここニューオーリンズの大きな問題を解決しようと立ちあがる人々、特に若い人たちがいると知ってワクワクしました。私はガラス瓶をリサイクルできないことに不満を感じて、奥の部屋にガラスを積み上げていましたから」と言います。「彼らと提携し、研究者としての自分の関心を彼らのやっている作業に組み込むというチャンスが来たときには、大喜びしました」 。
テュレーン大学で化学工学の准教授を務めるJulie Albertsさんは、「とても刺激的ですし、頑張っている(元)学生と働けるなんて実に身の引き締まる思いでやりがいがあります」と言います。「彼女の年齢だったころには、環境保全の取り組みにいつもイラ立っていたことを今でも思い出せます。いつまでも『改善されるようには見えなかった』からでした。このプロジェクトには私たちの地域に強い影響を及ぼすポテンシャルがあると思います」 。
Glass Half Fullが選ばれた理由
Glass Half Fullは、ガラスのリサイクルを行なっていないことと、浸食による土地の喪失という地域の問題2つに同時に取り組む策を見つけました。チームは毎月、ゴミとして捨てられたであろう15万ポンド(約68トン)超のガラス瓶分を回収しています。
また、彼らはフォロワー数25万8000超を誇るTikTokアカウントを通して啓蒙活動も行なっていて、リサイクル計画や異常気象への対応など幅広く関心を集めています。
次のステップは?
Glass Half Fullとテュレーン大学の研究者たちは、メキシコ湾以遠の環境にも粉砕ガラスの砂が適するかどうかリサーチを行なっています。彼らは他州での海岸回復に用いる前に、砂が水生動物に対して無害だと確かめたいのです。
「私たちはすでにアラバマ州、フロリダ州、可能性としてハワイも検討しています」と、Trautmannさん。「フェーズ2のゴールは、これが他のどの地域で役に立つ可能性があるのか、その地域の地元住民にこれを活用もらえるよう力づけるにはどんなリサーチを行えるかを調べることです」。
海洋生物がガラス砂にどう反応するのかを学ぶため、「堆積物で満たせる金属製のトレイを設計する」とテュレーン大学の生態学の教授Henry L. Bart氏は言います。「こういったトレイを潮の影響を受ける場所に設置すれば、海水が流れ込んだ時にコロニーが形成される」 とのこと。
アメリカ国立科学財団は、自然環境でのリサイクルガラス砂の検証テストを継続させるため、同プロジェクトに500万ドル(約6億8000万円)超の助成金を出しています。
チーム
Glass Half Fullの中核となるチームは、共同設立者兼COO&CFOのMax Steitz氏、共同設立者兼CEOのFranziska Trautmann氏、顧問のJelagat Cheruiyot氏、加工&物流ディレクターのRiley Singer氏をはじめ、Corey C.氏、Chuck Jones氏、Rodney Weber氏、Javier氏。オペレーションズマネージャーのAlex W氏と数千名以上のボランティアのネットワークから成ります。
アメリカ合衆国魚類野生生物局、Coalition to Restore Coastal Louisiana、Pointe-au-Chien部族と提携しています。
共同研究をしているReCoastチームのメンバーは、テュレーン大学からは主任研究員のJulie Albert教授をはじめ、Mead Allison教授、Tiong Aw准教授、Sunshine Van Bael准教授、Henry Bart教授、Keith Clay教授、Emily Farrer助教、プロジェクトマネジャーのKat Fogg氏、Vijay John教授、Ehab Meselhe教授、Katie Russell実務教授、Kejun Wen研究員。テキサス大学リオグランデバリー校からはDavid Hicks教授とJulie Vanegas助教、そしてルイジアナ州立大学のNavid Jafari准教授が在籍。そしてテュレーン大学から多数の学生たちも参加しています。
Source: USGS, Nola Alchemy, Pointe-au-Chien Indian Tribe, Tulane News, tiktok(1, 2), Glass Half Full, ReCoast(1, 2), U.S. Fish and Wildlife Service, Coalition to Restore Coastal Louisiana