まるで天然電池。「霞」から電気をつくる酵素を発見

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まるで天然電池。「霞」から電気をつくる酵素を発見
Huc酵素(酸化還元酵素の一種)の分子構造

土壌中のバクテリアのおかげで、いわゆる元手のない「霞」から電気をつくれる日が来るかもしれません。

オーストラリアのモナシュ大学の微生物学者が、土壌に生息するバクテリアの体内に、大気中の水素だけで電気を生成する酵素を発見しました。

水素を取り入れ電子をはき出すバクテリア

3月8日のNature誌に掲載されたこの研究は、研究チームがプレスリリースで「水素ガス・スカベンジャー」と呼んでいるHuc酵素が関係しています。Huc酵素はスメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)というバクテリアの体内にあり、南極の土壌や火山のクレーター、深海などの過酷な環境で生育するためにこの酵素を利用しています。

Huc酵素は空気中の水素を利用し、水素を消費する副産物として「天然電池」のように電子を生成します。研究チームによると、Huc酵素は地球の大気中に存在するより希薄な水素でも電子を生成できるそうです。

「私たちが本当にやりたかったのは、大気中の水素を回収するバクテリアからHuc酵素を取り出すことでした」と、主執筆者のライズ・グリンター氏はプレスリリースで述べています。「というのも、Huc酵素があるような極限環境微生物は培養が非常に難しい場合が多いからなんです。そこでまず私たちは、このバクテリアを培養して、次にこれを分解し、化学的にHuc酵素だけを分離する一連の新しい方法を開発しました」

世界の土壌に生息するバクテリアは毎年7700万トン以上の水素を消費して、地球の大気を一定に維持する重要な役割を果たしています。グリンター氏は、これらのバクテリアの60%〜80%にHuc酵素のような酵素があると推定し、生物から電気をつくりだす可能性を示唆しています。Huc酵素は物質的にも安定なので、冷凍したり加熱したりしても発電能力を維持できます。

研究チームによると、Huc酵素にはさまざまなエネルギーに応用する可能性を秘めていますが、Huc酵素が利用できる空気中の天然水素の量が少ないことを考慮すると、いずれもこのシステムは比較的小規模なものになるそうです。例えば、Huc酵素の電気出力は存在する水素量を示すサインになるので、水素量のセンサーとして使用できます。

それでもグリンター氏らのチームは、Huc酵素を小型電子機器の電源として利用できる日が来るかもしれないと考えています。またグリンター氏は、Huc酵素がより多くの水素を利用できるようになれば、Huc酵素の電力用途は大幅に拡大するだろうと語っています。

「これを実現するためには多くの課題が残されているものの、応用の可能性も高いですね」とリリースで述べています。「Huc酵素を十分に生産できてしまえば、クリーンエネルギー生産は文字通り、無限大になりますね」

生き物から電気をつくるなんて、まるでSF。でも自ずとその可能性に期待が膨らみますね。