プラごみに乗って移動する海の生物。
海上を漂う膨大なプラスチックごみをすみかにして、予想外の海洋生物が繁殖しているそうです。
Nature Ecology & Evolutionに掲載された新たな研究論文によると、通常は沿岸部でみられるはずの海洋生物が、太平洋を浮遊するプラごみに住み着いてしまったとのことです。
浮遊プラごみで暮らす沿岸種

研究チームは、2018年と19年に、北太平洋亜熱帯旋廻とよばれる海流によってつくられる、太平洋ごみベルトに浮遊するプラごみを105点採集して調査しました。
すると、プラごみに無脊椎動物やイソギンチャク、カニなどの沿岸域に生息する海洋生物が住み着いていたり、繁殖したりしているのを発見したそうです。
チームが分析したプラごみの70%から沿岸種がみつかり、確認された484種の無脊椎動物のうち、80%が普通は沿岸域にしかいないはずの種だったのだとか。
「地球上でもっともプラごみ汚染がひどい海洋循環」と評され、太平洋を時計回りに流れる太平洋ごみベルトには、推定7万9000トンのごみが漂っているといいます。
米ハワイとカリフォルニア州の間に位置する、この太平洋ごみベルト。海流のバリアーによってごみが集中しており、人間が捨てたペットボトルやビニール袋、小さな家庭用品などがたくさん漂流しているんです。
プラスチックが海の生物の家に
研究チームは、プラスチックの分解には気が遠くなるほどの時間がかかるため、浮遊するプラごみの上に生物のコミュニティーができあがってしまったと指摘しています。
海にゴミが溢れてしまう前、海洋生物は浮力のある植物や、火山噴火で形成された軽石に乗って新しいすみかに向かっていたんですけど、自然の素材は水中ですぐに分解されちゃってたんですよね。
ところが近頃の海洋生物は、“膨大なプラごみの海のおかげ”で、外洋でも生き延びられるようになり、本来はたどり着かないはずの場所に漂着するようになってしまった、と研究著者たちは記しています。
ハワイの生態系に迫る外来種

調査の中では、外洋種と沿岸種が互いに影響を及ぼしているケースもみられたそうです。
太平洋ごみベルトの漂流物は、ハワイのビーチやサンゴ礁に流れ着くことが多いといいます。そして研究者たちは、今回の発見がハワイのように繊細な生態系に悪影響があることを懸念しています。
研究の共著者で米ハワイ大学マノア校の上級研究者であるNikolai Maximenko氏は、プレスリリースで次のように述べています。
ハワイに近い北太平洋亜熱帯旋廻で沿岸種が生息しているという事実は、ハワイの島々が侵略的外来種によって植民地化されるリスクが高まっていることを示しており、これは一大事といえます。
アメリカの太平洋沿岸からハワイ諸島の間には浮遊するゴミの道が架かっていますが、科学者たちもその影響についてはまだよくわかっていません。
スミソニアン環境研究センターに所属する共著者のGregory Ruiz氏は、プレスリリースで次のように語っています。
私たちの研究は、急速に変化する外洋生態系に関する知識に大きな欠如があり、理解がまだ限定的だということを浮き彫りにしました。
これは、公海における生物学的調査、物理学的調査、海洋ごみの測定などの観測システムを劇的に向上させる必要があることを明示しています。