海洋汚染から学べ。スペースデブリ衝突で飛行機を墜落…させないために

  • author Michael Byers and Aaron Boley - Gizmodo US
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  • そうこ
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海洋汚染から学べ。スペースデブリ衝突で飛行機を墜落…させないために
Image: Shutterstock

ドラマ『ブラッシュアップライフ』ではこれが原因であんなことに…。

地球低軌道にガンガン衛星打ち上げてるなぁと、普通の人でも感じる今日このごろ。

宇宙事業の躍進で、今まで以上に頻繁に耳にするようになったのはスペースデブリという言葉。宇宙ゴミのことで、その名の通りゴミです。

使用期間終了後の人工衛星や故障した部品などなど、人類が出した宇宙空間に漂うゴミ。地球に落下しないの?と不安に思いつつ、大気圏で燃え尽きちゃうから大丈夫だよ!と言われればそんなものかと思っていましたが…。

わずかではありますが、落下また飛行機に衝突するリスクはあるのです。

個人的にどハマりしたドラマ『ブラッシュアップライフ』の影響で徳を積む日々を心掛けている私ですが、ドラマではスペースデブリが人生をやり直す理由になっていました。

このドラマ以後、もともと苦手だった飛行機がさらに苦手になってしまったのですが、スペースデブリってどうしようもないの? さすがに宇宙にはゴミ拾いボランティアに行けないので、個人でできることはほぼないと思いつつ…。でも、国が、企業が、世界ができることはないの?

ブリティッシュコロンビア大学の政治学教授Michael Byers氏と、宇宙物理学の准教授Aaron Boley氏によるスペースデブリに関する米ギズモードへの寄稿文を翻訳しました。


2020年5月11日、アメリカはロサンゼルスからニューヨークへ、9分間にも及ぶ脅威の飛行物体が発生。

飛行物体はこれ以前から噂されていた中国の長征5号ロケットのボディ部分20トンが、時速60マイルで通過したものだった。その15分後には、ボディは大気圏に再突入しバラバラに。その中には、コートジボワールのある村に墜落した12メートルほどの残骸も。

任務を終えたロケットは地球軌道上に放置され、制御不能という状態で地球に戻ってきたのである。

これがきっかけで、陸、海、空において世界中の人々への無差別な脅威を提唱することとなった。致命的影響の可能性はごくわずかではあったものの、その影響は非常に大きかったのだ。

リスク vs コスト

長征5号ロケット落下当時、米連邦航空局は長征5号ロケットが通過するであろう空域の閉鎖をしないことを決定。飛行業界や乗客の経済的コストが大きいのに対し、決断する時間と確証があまりに少なかったからだろう。

こういう場合、決断する側は、経済への影響と惨事発生のわずかなリスク受け入れを天秤にかけることになり、米連邦航空局は後者を選択したのである。

2022年11月4日、長征5号ロケットの一部が再び制御不能状態で大気圏を通過することを受けて、スペインとフランスは40〜60分間空域を閉鎖。

結果、ロケットは無事空域を通過。しかし、スペイン空域閉鎖により300を超えるフライトに影響し、航空会社や乗客に数百万ユーロの経済的打撃を与えた。

アメリカの判断、フランスとスペインの判断は、どちらが適切だったのだろうか?

飛行機の遅延を好む人はいないが、それは安全と規制を順守された上での話である。そもそも、なぜこんな決断を迫られねばならないのかという話になる。

で、スペースデブリ衝突の証拠は?

フライト中の飛行機は、わずか300グラムほどのスペースデブリでも、エンジンや翼などに当たれば深刻な影響を受ける。

が、フライト中の飛行機にスペースデブリが衝突したという実例はまだないのだ。

1996年には上空3万1500フィートを飛行中のボーイング757のフロントガラスに、不明物体が衝突

2013年には上空2万6000フィートを飛行中のボーイング757の機体先端(ノーズコーン)に見確認物体が衝突。これらは、バードストライクではないとみられている。だが、スペースデブリであったという確証もない。

スペースデブリと飛行機の衝突を、一般の人々が心配する必要はないだろう。なぜなら、その可能性は極めて低いからだ。バードストライクよりも確率はずっと低い。

しかし、確率が低い=放置していいということではない。例えば記憶に新しいところでコロナワクチン。2021年、アストラゼネカのCovid-19ワクチンは3400万人中222のケースで血栓リスクのわずかな可能性(0.0007%)が指摘され、多くの国が反応。アメリカではアストラゼネカの認証が降りず、より高額なMRNAワクチンの導入が進められた。

今日、2つの要因から飛行機とスペースデブリ衝突のリスクは高まっているといえる。航空交通量の増加と、地球低軌道空間の利用増加だ。

コロナパンデミック期間はさておき、近年、世界のフライト数は増加傾向にある。また、ここ4年での地球低軌道を飛行する人工衛星の数はおよそ3,000基から8,000基と2倍以上になっているのだ。

制御 vs. 制御不能

人工衛星はロケットを使って打ち上げる。ロケットの中にはコントロールされた上で地球に帰還するものもあるが、軌道上に放置されるものが多い。

地球低軌道でも地球大気上部の影響を受けるため、コントロール下にない物体は徐々に引っ張られ、結果、大気圏再突入が発生。再突入の予測は、大気の変化が影響するため非常に難しい。

一方、コントロールされたロケットの大気圏再突入は、ロケット本体のエンジン燃焼によって起きるため、海や回収エリアなど離れた場所にロケットを誘導することができる。

そのため、打ち上げ後も一定の燃料を残す必要、またエンジン再点火もできるようにする必要がある。多くの衛星運用者は、燃料費や技術面でのコスト増を避けるため、前者の制御不能ロケットを選択している。

宇宙開発のリーダー的存在であるSpaceXすらも、ときにロケットの第2ステージ部分は放置することがあるのだ。2016年、そのステージ部分のベッセル2つが(それぞれ洗濯機ほどの大きさ)がインドネシアに墜落した。

国際民間航空機関やエアラインパイロット協会(ALPA)を含む航空関連団体も、事の大きさには気づき始めている。

2022年3月、航空安全と制御不能なスペース物体の大気圏再突入におけるモントリオール提案(Montréal Recommendations on Aviation Safety and Uncontrolled Space Object Reentries)が出された。この提案書は、フランス国立宇宙研究センター監察官やアメリカ空軍宇宙安全部署トップなど、国際的な専門家によってまとめられたものだ。

提案書は、「いかなる単一国家による宇宙利用も、他の国へリスクをもたらす世界的影響力があること」を認識した上で、「宇宙物体の制御不能状態での大気圏再突入を回避する必要性」を各国に呼びかけている。

公の関心が高まり、国がロケットの地球帰還制御を義務付けるようにするにはどうすればいいのか。大惨事となる大きな事故でも起きないと、世の中は動かないのだろうか…。

アメリカによる規制への期待感

実は、我々は同種の問題をすでに体験しており、前例から学ぶことは可能である。

1970年代、原油流出の海洋汚染リスクの高まりから、タンカーの二重構造(ダブルハル)の義務付けを求める声が高まった。

しかし、コスト増への懸念から企業は対策に乗り出さず、ついに1989年、アラスカのプリンスウィリアム湾に1100万ガロンもの原油が流出したエクソンバルディーズ号原油流出事故が発生。

世間の関心は一気に高まり、米国家運輸安全委員会がダブルハル(タンカーの船内構造が二重になっていること)であれば原油流出量は著しく減少されていたと結論付け、その後米政府は、アメリカに寄港する新造タンカーにダブルハルを義務付けることとなった。

この動きを経て、1992年に国際海事機関(IMO)はマルポール条約(船舶による汚染の防止のための国際条約に関する議定書)を改訂して、新造タンカーのダブルハルを義務付けた。

さらに2001年と2003年の改訂を経て、シングルハルタンカーの引退を後押し。1992年の改定以来、150の国がこれに準じており、これは世界の船便重量98%にあたる。

この例で着目したいのは、アメリカが先行してダブルハルを取り入れ、その動きが世界的な法整備成功をリードしたということである。となれば、今日の制御不能ロケットの大気圏再突入問題も、アメリカがリードできる国際的安全問題の1つとなる可能性は大いにある。

米連邦航空局は世界のロケット打ち上げ許可の大半を担っており、世界最大級の航空業界へ規制を行なっている。

フライト中の飛行機がスペースデブリに衝突する前に、米連邦航空局が国際的取り組みをリードしてほしいと切に願わずにはいられない。

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https://www.gizmodo.jp/2023/03/scientists-call-global-treaty-address-space-junk-jpn.html