それでも宇宙人は、いる。きっと。
『Xファイル』のポスターに刻まれた名言、“I want to believe(私は信じたい)”。
この「信じたい」という気持ちが、時に私たちを惑わせます。例えば、目を疑うような天体現象に遭遇したとき、私たちはそこに何者かの知性や意思を見出そうとしてしまいます。
そこに誰がいるのか知りたい…というのは私たち人類のあくなき欲求。それはつまり、「我々以外にも誰かいるといいな…」という願いなのです。
かつて私たちの遠い祖先が初めて夜空を見上げたその瞬間、彼らは上空にきらめく小さな点を見つけて「どこか遠くで焚き火が燃えている…!」と思い込んだという話を聞いたことがあります。
これは、人類が実際には存在しない宇宙人を「見た」、最も古い出来事だったのでしょう。そして今、私たちも同じ歴史を繰り返しているのです。
火星人の公共事業

llustration: Percival Lowell via Gizmodo US
ある日、望遠鏡で火星を覗いたアメリカの天文学者パーシバル・ローウェル氏は「知的生命体の痕跡を発見した!」と確信を抱きました。
1906年、彼が「火星には何らかの生物が住んでいることは確かだが、それが何であるかは不明である」と 記したことはよく知られた話です。
ローウェルは、火星の表面にある不思議な模様を「複雑な運河のネットワーク」であり、「知的生命体が農作物の灌漑(かんがい)に利用している」と理解しました。実は、その30年前にイタリアの天文学者ジョバンニ・スキャパレリも、同様の結論にたどり着いています。
なんとも大胆な解釈ですが、つまるところローウェルもスキャパレリも、目の錯覚に騙されてしまったのです。もしかしたら、そうであってほしいという希望的観測かもしれません。
その後、この模様は地質学的な自然の営みによって作り出されたものだとわかりました。
リトルグリーンマンからの奇妙な信号

Image: X-ray: NASA/CXC/Univ of Toronto/M.Durant et al; Optical: DSS/Davide De Martin via Gizmodo US
1967年、天文学者のジョスリン・ベル・バーネ氏は不気味なリズムのパルサー(強い電波)を発見し、「これはいったい何…?」と戸惑ったそうです。
彼女はそのときの様子を、1977年のエッセイ“Little Green Men, White Dwarfs or Pulsars?(緑の小人、白色矮星、それともパルサー?)”で次のように語っています:
他の文明からの信号をキャッチしたと確信したわけではありませんでしたが、その考えが頭をよぎったことはたしかです。
それを単なる自然の電波放射だとする証拠はありませんでした。「宇宙のどこかに生命を発見したかもしれない」と思っても、それをどうやって責任もって発表するのか、というのは興味深い問題です。
まず誰に報告すればいいのでしょう? その日の午後までに答えを見つけることはできず、当時新たな技術で博士号取得を目指していた私は気分悪く家に帰りました。
おかしなリトルグリーンメンたちが我々とコミュニケーションをとりたかったなら、我々のアンテナと周波数を選ばなければならなかったのです。
バーネル氏とそのチームは、この信号をリトルグリーンメンの頭文字から“LGM-1”と名付けました。
結局、この信号は天空の灯台から届いた宇宙人からの交信ではなく、磁気を帯びて回転する中性子星が発する周期的な電磁波の閃光だったことが判明しました。
科学者が思わず「ワオ!」と叫んだ信号

Image: Big Ear Radio Observatory and North American AstroPhysical Observatory (NAAPO) via Gizmodo US
1977年8月15日、オハイオ州立大学のビッグイヤー電波望遠鏡でSETI(地球外生命体探査)プロジェクトに勤しんでいた天文学者のジェリー・エーマン氏は、奇妙な信号を見つけました。
72秒間続いた信号は尋常ではないほど強力で、エーマン氏は思わず6EQUJ5という文字コードを丸で囲んで、余白に“WOW(ワオ)!”と書き込んだのです。
帯域が狭い電波信号の強度変化を表したこちらのコードは、射手座の球状星団から発信されていると思われました。信号の発信源は特定されず、「宇宙人から来たのでは!?」という憶測を呼びましたが、2016年の研究で彗星による水素雲が生み出したものだとわかりました。
地球外生命体からの信号…じゃなかった

Image: Green Bank Observatory via Gizmodo US
1997年の夏、SETI研究所の科学者チームが、宇帯域の非常に狭い電波信号が発せられているのを検出しました。
当時のチームメンバーで、現在はSETI研究所の上級天文学者であるセス・ショスタック氏によると、この信号は国立電波天文台にある140フィート(約43メートル)のアンテナによって収集されたもので、「スペクトル的にテレビ放送の数百万分の一ほどコンパクト」だったそうです。
この信号が宇宙から来たものだとわかり、科学者たちは歓喜しました。2016年、彼は『Air & Space』の記事で「何年も試行錯誤してきて、これほど有望な信号は他になかった」と記しています。「これは本物なのでしょうか」。
残念なことに、これはNASAとESAが運用する太陽観測衛星SOHOからのテレメトリ信号であることが明らかになりました。
銀河系の外から届いた強力なパルス

Image: McGill University Graphic Design Team via Gizmodo US
2007年以来、天文学者は高速電波バースト(FRB)と呼ばれるミリ秒単位の強力なパルスを何百回も検出しています。
これらのパルスはすべて銀河系外から発せられており、その発生源を特定することは非常に困難でした。さまざまな自然現象が想定される一方、「宇宙人の仕業だ」という説ももちろんありました。
しかし、最近になって天の川銀河の内部でFRBが検出されたことから、この信号の発生源(少なくともその一部)がマグネター(磁気の強い中性子星)であることが明らかになりました。
謎の電波信号の送り主は…電子レンジ

Image: George Dvorsky via Gizmodo US
米Gizmodoの見出しで秀逸だったのが、元科学系記者のマディー・ストーン氏がつけた“Mysterious Radio Signals Came From Microwave Oven, Not Outer Space.” というもの。
訳すと、「謎の電波信号は宇宙ではなく電子レンジからやってきた」。そんなことアリ?って感じですが、顛末は以下の通り。
オーストラリアにあるパークス天文台の天文学者たちは長年、深宇宙から発信される電波パルスについて「これはいったいどこから来たのだろう…」と困惑していました。
「ペリトン」と名づけられたこのパルス、実は非常に近い場所から発せられたことが判明。オランダ電波天文学研究所の天文学者、エミリー・ペトロフ氏が率いた研究で、「電子レンジのドアを途中で開け、望遠鏡をある角度に設定すると、1.4GHzのペリトンが発生する」ことがわかったのです。
234個の星から届いた…かもしれないレーザー信号

Image: Sloan Digital Sky Survey via Gizmodo US
2016年、ケベック州ラヴァル大学の天文学者エルマンノ・ボラ氏は大学院生のエリック・トロティエ氏と共に、「高度な(文明を持つ)宇宙人が強力な指向性レーザーで我々に接触を試みるかもしれない」という可能性を探っていました。
2人はスローン・デジタル・スカイサーベイという一大宇宙地図プロジェクトに記録された250万個の星を調査し、偉大なテクノロジーに見合う周期スペクトルの兆候を探索。その結果、234件の候補を発見し、すべてが太陽に似た星から発せられていることを突き止めました。
いったい誰がこれを発信しているのかさらに突き詰めたところ、2つの可能性に行き着いたのです。それは「スローン観測装置自身が出した信号」もしくは「宇宙人によるもの」ということ。
地球外の人工的な電波および光信号を探索する“Breakthrough Listenイニシアチブ”の研究者が記したフォローアップレターでは、「ボラとトロティエが見た1万に1つの珍しいスペクトルの天体は、確かに追加研究の価値がある」としながらも、「非凡な主張には、非凡な証拠が必要。これらの信号とされるものが地球外文明の活動であると明確に断定するのは時期尚早である」"と述べています。
ボヤジアンの星と「異星人が作った巨大な構造物」

Image: NASA / JPL-Caltech / R. Hurt (IPAC) via Gizmodo US
巷で「ボヤジアンの星」と呼ばれる星KIC 8462852は、130年近く前から天文学者の注目を集めていました。それが最近ちょっとおかしな活動をしています。
ルイジアナ州立大学の天体物理学者タベサ・ボヤジアン氏は、2015年、この星が断続的に、時には22%も減光していることに気づいたのです。光度の変化は数日から数週間続きましたが、減光にパターンは見られませんでした。
「ボヤジアンの星」のニュースが流れると、彗星群や塵の帯、最近壊れた惑星や歪んだ星など、さまざまな仮説が囁かれました。
なかでもペンシルベニア州立大学の天文学者ジェイソン・ライト氏は、「ダイソン球みたいな異星人の巨大構造物ではないか」と提唱し、科学界を震撼させました。しかし、2019年の研究で、この奇妙な光の原因は、崩壊した月であることが最も有力な説であることが示唆されています。
消えゆく星々

Image: B. Villarroel et al. (2019) via Gizmodo US
昨年行われた研究で、100個ほどの「消えゆく星」が確認されました。
これはその名の通り、「消える星」です。最初は薄暗い赤い点として現れ、次第に明るくなり、そして1時間足らずの間に見えなくなるという、不可思議な現象が起こります。
ストックホルム大学のベアトリス・ビジャロエル氏を中心とする研究者チームは、「ブラックホールに直接衝突でもしない限り、星が物理的に消滅するプロセスは知られていない」と論文に記しています。「もし、そのような例が存在するならば、研究対象として興味深い新たな特異現象か、技術的に高度な文明の兆候かもしれません」。
これらの「特異現象」は超新星爆発の失敗か、赤色矮星から発せられる大規模な太陽フレアという可能性もありますが、実際にはわかりません。
「消えゆく星々」はいずれ原因を解明したい問題ですが、少なくとも現時点では「宇宙人のせいかも!」と思わせる余地を残してくれています。
オープンマインドでいよう

Image: NASA, ESA and STScI via Gizmodo US
ここまでさまざまな「宇宙人の仕業かも…と思われた現象」を紹介してきましたが、決して皆さんをからかっているわけではありません。
憶測をする時間は、いくらでもあります。いずれのケースでも、科学者たちは不可思議なことが起きたとき、宇宙人の関与を指摘する前に、まずは既知であれ推測であれ、可能な限り自然現象で説明しようとしています。
科学者には、このように「推測する」自由があるべきで、「それは100%あり得ない」と言えるまで、可能性は可能性のまま残されるべきです。
ある日突然、「やっぱりあれは宇宙人の仕業だった!」と世の中がひっくり返ることになるかもしれませんよ。