ウミガメはなんにもしてないのにね…。
アメリカ大陸とオーストラリアに生息するウミガメと、彼らが依存している重要な繁殖地が、気候変動の脅威に直面しています。Scientific Reportsに掲載された最新の研究によると、急速な海面上昇がウミガメの産卵する海岸を飲み込んでしまう可能性が高いとのことです。
2050年までに産卵場所が沈む可能性
今回の研究では、絶滅危惧種保護法の対象とされているオサガメ、アカウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメ、アオウミガメなどに焦点を当て、温室効果ガス排出量、営巣地、特定の場所の地形について、いくつかのシナリオを検証しました。
その結果、中南米、アメリカ、カリブ海、オーストラリアの海岸の営巣地が浸水するほど海面が上昇するかどうかを分析しました。
研究チームは海面上昇について、「保守的なシナリオよりも悲観的なシナリオの方がより正確かもしれない」と警告しています。「中程度の温室効果ガス排出シナリオでは、2050年までにいくつかの営巣地が100%浸水することが予測されます。また、極端なシナリオの場合、多くの営巣地が消滅してしまう恐れがあります」と指摘しています。
中程度のシナリオであっても、平らなビーチにある営巣地は海面上昇により脆弱(ぜいじゃく)になると予測されています。中でも、比較的広い範囲に産卵する傾向があるオサガメの営巣地は、他の種よりも海面上昇が脅威になるそうです。
【補足】 ここでは、排出シナリオとしてRCP(代表的濃度経路)が用いられています。
これは、人間活動による温室効果ガス濃度が将来的にどの程度になるかを想定したシナリオで、この研究では保守的・中程度(RCP4.5)と極端・悲観的(RCP8.0)に区分されています。
目安として、数値が大きいほど将来的な気温も海面も上昇幅が大きくなります。
復元力と回復力がサバイバルの鍵
ウミガメは水中に生息する海洋動物ですが、陸地で卵を産む必要があります。
メスのウミガメは産卵のために毎年同じ海岸に戻ってきますが、急激な海面上昇によって数十年で砂浜が浸水してしまった場合、別の場所を探して産卵する習慣を身につけるために十分な時間がないかもしれません。
研究チームは、一部の種が海面上昇にどの程度適応できるに関する情報が欠落しているといい、論文で以下のように述べています。
「不確かな要素として、ウミガメが海面上昇に適応する可能性があります。つまり、ウミガメが生き残れるかどうかは、営巣地の急激な変化に対する復元力と適応力にかかっています」
急速な適応を強いられるウミガメ
ウミガメの生態は気候変動によってすでに変化を強いられています。
夏が暑くなるほど、ふ化してくるひなのオスとメスのバランスが崩れ、メスが圧倒的に多くなってしまいます。オーストラリアやアメリカのフロリダ州では、すでにこの影響が見られることを研究者が明らかにしています。
このまま温暖化が進んでメスが増え続けると、ただでも絶滅危惧種のウミガメは個体数を増やせなくなります。
また、2021年のテキサス大寒波では、メキシコ湾の急激な海水温の低下によって体温調整が不能状態になり、海中で身動きできなくなったウミガメをボランティアたちが懸命に救出するという出来事もありました。
気候変動は地球上の生物にありとあらゆる問題を引き起こしていますが、特にウミガメにとっては、今はもちろん、今後さらに厳しい状況に直面することになるかもしれませんね。気候変動対策待ったなしです。