映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のプロデューサー/イルミネーション創業者が語る、任天堂とのコラボの裏側

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  • author 傭兵ペンギン
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映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のプロデューサー/イルミネーション創業者が語る、任天堂とのコラボの裏側
Image: (C) 2023 Nintendo and Universal Studios

任天堂の看板キャラクターであるスーパーマリオを主人公にし海外で大ヒットを記録中のCGアニメ映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』。

今回は任天堂と共に映画を作り出したアニメーション製作会社イルミネーションのクリス・メレダンドリにインタビュー。今回のコラボレーションが始まったきっかけから、ミニオンズでおなじみの『怪盗グルー』シリーズなどのヒット作を連発をしてきた秘訣など、色々伺ってきました!


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Photo: ギズモード・ジャパン

──この映画を最初に持ちかけたのは誰だったのですか?

クリス・メレダンドリ(以下、メレダンドリ):2014年頃に宮本(茂。任天堂株式会社代表取締役フェロー、 『マリオシリーズ』などの生みの親)さんに会う機会があり、そこでお互いがどんな思想やプロセスで仕事をしているかなどクリエイティブな方面の話をしました。

その段階では、まだ何かをやるという感じではなかったのですが、半年か1年くらい話を続ける中で一緒に仕事をしようという流れになっていきました。そこで出てきたのが、『マリオシリーズ』の映画化でした。

後でわかったことですが、任天堂はちょうどそのあたりの時期に自分たちの持っているキャラクターたちをゲームとはまた別の形で楽しんでもらう方法を模索していていたそうです。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにテーマパークを作る計画もその一部だったのだと思います。

ただ、最初からマリオじゃなくてはいけないと決まっていたというわけではなく、話し合いをする中でマリオの映画化となっていきました。

──なぜ任天堂はイルミネーションと一緒に映画化をすることに決めたのだと思いますか?

メレダンドリ:これは私の持った印象ですが、おそらく宮本さんと私の間にクリエイティブな方面でスタイルやアプローチの仕方に共通点があったからだと思います。コラボレーションは本当に難しいものなので、そういった面で互いを信頼できるというのがあったのでしょう。

実は私は何年も前から日本に何度も来て一緒に作品を作れるクリエイターをずっと探して続けていたのです。15年以上も前のイルミネーションの立ち上げの時も、その最初の週には日本にパートナーを探しにきて出版社やスタジオ、監督たちと会議をしていましたね。宮本さんはそれを知っていたかはわかりませんが、もしかするとなにか感じる物があったのかもしれないですね。

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(C) 2023 Nintendo and Universal Studios

──それから実際に任天堂とコラボレーションをしてみていかがでしたか?

メレダンドリ:素晴らしい経験でした。私や他のプロデューサーと監督は、宮本さんと彼のチームと一緒にデザインやアニメーションテストなど製作のあらゆる工程をチェックし、一丸となってコラボレーションをしていくことができました。そして次第に互いを尊敬し合う仲になっていきました。

また、私たちは誰も最初から「ノー」とは言わず、なにかあったらまずどんなことでも試してみると決めていました。その製作のリズムが双方にとって自然なものに感じられましたね。

──いろいろと試したとのことですが、任天堂はキャラクターのデザインや描き方に関して厳しくはありませんでしたか?

メレダンドリ:任天堂はキャラクターに関して明確な理念を持っています。アメリカの業界でいうところの”ガードレール”があって、キャラクターがもつ原則や価値観などから外れていかないようにしてあります。そして任天堂のチームの人たちは本当に頭が切れて、彼らが”ガードレール”から外れていると指摘してくる内容はいつも理にかなっています。

究極的には彼らが作り出したキャラクターであり、世界観なのでそれを尊重して当然だと思います。彼らが一番詳しいわけですからね。これはイルミネーションがもつキャラクターでも同じで、たとえば誰かがミニオンズを扱うとなったら私たちのチームが同じように対応することでしょう。

なにより今作はゲーム業界の伝説的な存在である宮本さんが参加してるわけですから、できるだけ多くのアドバイスを貰いたいので、喜んで受け入れましたよ。

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(C) 2023 Nintendo and Universal Studios

──少し今作から離れて、これまでのキャリアについてお話を聞かせてください。クリスさんは『フットルース』で映画業界にかかわるようになり、『クール・ランニング』などの実写映画を手掛けてるなど、実写映画のプロデューサーでしたよね。なぜアニメーションに転向したのですか?

メレダンドリ:ほとんど偶然でした。そもそもアニメーション作品は子供の頃からほとんど見たことがありませんでした。私の両親はすごく映画好きでいろんな国の実写映画を子供の頃から見せてくれたのですが、TVでアニメーションを見るのは許してもらえなかったのですよ。

それもあってアニメーションを見るようになったのは父親になってからでした。私はその頃すでに30代前半だったのですが、90年代のいわゆる“ディズニー・ルネサンス”の真っ只中でした。『リトル・マーメイド』の成功から始まり、『ライオン・キング』や『美女と野獣』などの名作がどんどん作られていたタイミングですね。

同時にビデオテープの全盛期でもあって、家庭用のビデオ版が売れた時代です。その時に私はジブリ映画のビデオ版の全集をプレゼントされ、それも合わせて見ていました。私にとってのアニメーションは大人になってから自分の息子と一緒に見たディズニーとジブリだったのです。

それから数年後にフォックス・アニメーション・スタジオ(注:20世紀フォックスのアニメーション製作部門)でストーリー方面での監修を任されることになったのですが、その段階ではアニメーションづくりのプロセスに関して一切知識がありませんでした。それでも仕事で関わるようになり、魅了されていったのです。

──そこで『タイタンA.E.』や(フォックス傘下のブルースカイ・スタジオに移って)CGアニメの『アイス・エイジ』や『ロボッツ』などを手掛けられましたよね。なぜそこからイルミネーションを立ち上げることにしたのですか?

メレダンドリ新しい挑戦がしたかったというのが大きいです。フォックスでアニメーション製作チームを作り上げ、それがしっかりと機能するようになってから、新しい挑戦をしてみたいと考えていました。

そしてせっかく新しい挑戦をするならば、一から作っていこうということで、イルミネーションを立ち上げたのです。その段階では、アニメーションを生み出すチームもいなければ、映画化できるストーリーのアイデアすらありませんでした。かなりの恐怖を感じましたが、その恐怖が私を成長させてくれました。

──そうやって立ち上げたイルミネーションでは『怪盗グルー』シリーズや『SING/シング』シリーズなどヒット作を連続させていますが、その成功の秘訣はなんなのでしょうか?

メレダンドリ:難しい質問ですが、質が高い映画を作り続けてこれたのは、製作に関わった人たちのお陰だと思っています。本当に才能あふれるチームが揃っています。

そうした才能のある人たちと仕事をしていくことで、高い芸術性も持ち、世界で大ヒットするに値する作品が生み出せているのだと思います。ついこの前も、フランスの素晴らしいスタジオと出会って、一緒に作品を生み出すことにしました。

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(C) 2023 Nintendo and Universal Studios

さらに、私の判断の基準の影響もあると思います。私はキャラクターやストーリーに自分が興味を持てるかどうかをまず重視します。そしてそのことに関して他のメンバーとも話し合って、彼らも興味を持てるかどうかを確かめます。こうすることで一定の基準が生まれるだけでなく、世界中のさまざまな人に興味を持ってもらえる作品になっているのでしょう。

そしてその基準はすぐに変わるということでもあります。明日には、まだ誰も注目していない新しいなにかに興味を持つかもしれませんね。

──興味を持つものとのことですが、クリスさんは日々どんなものを見ているのですか?

メレダンドリ:自分の中での流行りというのがあって時期によっていろいろ変わるのですが、たとえば最近のコロナ禍でのロックダウンの間は古い映画をたくさん見ました。1950年代のフレンチ・ニューウェーブのジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーの作品ですね。あと黒澤明監督の『天国と地獄』を初めて見たりもしました。

一方でアニメだと『進撃の巨人』や『ソードアート・オンライン』などを見ました。『竜とそばかすの姫』も素晴らしかった。『時をかける少女』の頃から細田(守)さんの作品が好きなんです。

アメリカやヨーロッパのTVシリーズもたくさん見ています。キャラクターの掘り下げがすばらしく、たとえば『イージー・ライダー』やスタンリー・キューブリック監督作品のように、かつて70年代あたりに映画が挑戦していたことを、今はTVでやっているんですよ。中でもドイツの『バビロン・ベルリン』は凄かった。

というわけで、特に特定のこだわりがあるわけではなく、いろいろなものを見ています。今は配信サービスのおかげで新旧いろいろな作品が見れるのが素晴らしいですね。

──新しい作品を見て、クリエイターを発掘しようみたいな感じではないのでしょうか?

メレダンドリ:いえ、常に新しい才能を探し続けています。ただ、3DCGアニメの場合はショートフィルムなどをチェックすることが多いですね。また、別ジャンルや別の手法を使った作品から探すことも多いです。

たとえば今回の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の監督のアーロン(・ホバース)とマイケル(・イェレニック)はこれまで伝統的な2Dアニメをやってきていますが、3DCGアニメは初挑戦です。また次の作品『マイグレーション(Migration、原題)』の監督のベンジャミン ・レネールも同様です。

映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は2023年4月27日(金)から全国ロードショー。

Source: 映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』公式サイト, YouTube