Threadsは平凡で退屈。でもそれを求めていた

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  • author Thomas Germain - Gizmodo US
  • [原文]
  • 福田ミホ
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Threadsは平凡で退屈。でもそれを求めていた
Image: Shutterstock

今のところは、ユーザーにとっても広告主にとっても安心な場所。

MetaがほぼTwitterなサービス、Threadsを立ち上げました。7月6日(現地時間)予定のリリースを5日へと微妙に早め、前のめりのスタートです。Metaのマーク・ザッカーバーグCEOによれば、ローンチ後、ほんの数時間で1000万ユーザーを達成しました。

Threadsの中身を見てみると、正直、退屈です。

でも、それがThreads、そしてMetaの成功のカギとなりえるでしょう。

カオスと化したインターネットの世界において、平凡な毎日こそがユーザー、そして広告主が求めているものかもしれないからです。

平凡なSNSって意外と手に入らないって話

Threadsを初めて立ち上げたユーザーが見たものは、Twitter初期の素朴な日々にも似た、なんてことないポストたちでした。

億万長者のマーク・キューバン氏が一般人のようにふるまい、YouTuberのジェイク・ポール氏は誰かに現金を渡すと言い、普通のユーザーはわかりやすいジョークを交わし合いました。

一足先にジャック・ドーシー氏が立ち上げたSNS、Blueskyみたいに、宇宙生物アルフの画像だらけでもありません。CEOがカジュアルに人種差別発言を放つこともありません。誰かが暴動を煽ることもありません。イーロン・マスクが引き起こさずにはいられないような障害など、「今のところ」ありません。

みんなとりあえずThreadsにログインし、しばしスクロールし、多くの人がこれといって得るものもなく去っていったのではないでしょうか。

でもMetaがTwitterを出し抜くために必要なのは、誰かが何かをポストしたら、ポストがいいねされる、ありきたりで安定したSNSです。とりあえずそれは、うまく行っています。Threadsは今、平凡の結晶みたいな存在です。

Threadsの強みはInstagram

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Twitterユーザーがオルタナティブを切望してさまよっていたこの数カ月は、ザッカーバーグ氏が攻勢をかけるチャンスになってしまいました。Insider Intelligenceのプリンシパル・ソーシャルメディア・アナリスト、Jasmine Enberg氏はこうコメントしました

ThreadsがTwitterにさらなるダメージを与えるには、Twitterの全パワーユーザーを取り込む必要はありません。

Instagramユーザーの4人にひとりがThreadsを毎月使いさえすれば、Twitterと同じ規模になります。Metaにはすでに、それを実現できるだけの規模とリソース、そして実務戦略があります。

他のテキストSNSと比べたときにThreadsの最大の優位性は、Instagramを基盤にしていることです。じつは正式名称は「Threads、Instagramのアプリ」というくらい、その関係は密接です。

クルクルしたロゴのカラースキームも同じです。ユーザーがThreadsで使う名前も、良くも悪くもInstagramと同じです。でももっと大事なのは、Instagramの友だちとかフォロワーとワンタップでつながれることです。

新しいSNSってコミュニティを作るまでがちょっとしたハードルなわけですが、Threadsではそれがすごく低いんです。Instagramの20億ユーザーネットワークを使えることで、Threadsにはいち早い成功が見込めます。

自滅中のTwitter

一方Twitterは、自滅の勢いが止まりません。先週末は一時的とはいえ、ユーザーが閲覧できるポスト数を制限するという驚愕の決断を下しました。その理由をTwitterはスパムやボット対策だと説明しましたが、専門家はTwitter内の技術的問題対応だろうと推測しています。

理由はともあれ、ユーザーの多くがマスク氏の采配に不満を募らせているこのタイミングで、Twitterは自分に追い打ちをかけてしまいました。さらにもちろん、ネオナチやヘイトスピーチ、アンチトランスジェンダーの声、その他もろもろ未解決事案が山積しています。

最近のTwitterに関して不満なのはユーザーだけじゃありません。少なくとも短期的には、広告主が大脱出中です。マスク氏は何も問題ないと言い張ってますが、Twitter内部の予測では、広告売上が対前年比で59%減少しているそうです。

Threadって続きそうなの?

Threadsは、とりあえず財務的には全然安定してそうです。業界関係者によれば、広告主やeコマースの顧客にはすでにThreadsの情報が渡っているし、Threadsがプロモーションで使っていたスクショ画像ではユーザーがローカルなお店について会話しているのも匂わせ感があります。

ThreadsはTwitterより厳しいInstagramの利用規約に準じているので、たとえばヌード画像も禁止です。ThreadsとTwitterとのはっきりした機能的な違いのひとつには、トピックで参照できるハッシュタグが使えないことがあります。

Threadsの設計では、よりブランド中心でとっつきやすいものになると予想されます。運営がカオスでブランドにとってあまり安全でないTwitterの環境に比べ、Threadsはブランドにとってよりクリーンでコントロールされたプラットフォームになると考えられます。

マーケティングテクノロジープラットフォームのSOCiのディレクター、Damian Rollison氏はこのようにコメント。

「FacebookとInstagramは、あらゆる規模の企業との強い絆を築いてきました。つまりThreadsにブランドを載せるときも、よりスムースにできるはずです。」

ただ広告収入とはゼロサムではなく、巨額のマーケティング予算を持つ企業は、認知が取れる場所ならどこへでも出稿していきます。

だからTwitterとMetaは、必ずしも同じお皿の上のお金を奪い合うというわけではありません。ただ広告も市場のトレンドを追うことが多く、とくに目新しい何かに引き寄せられる傾向があります。もしThreadsが広告を載せる安全な場として確立されれば、広告主はTwitterとの関係を続ける理由が薄れるかもしれません。

課題は運営会社がMetaってこと

もちろんThreadsにも課題はあって、とくにMetaの悪いイメージは問題です。世間はまだMetaが「Facebook」という社名だった頃、ユーザーのデータを搾取して儲けていたことを許していないでしょう。

ThreadsはInstagramやFacebookと同様、広告を主要な収益源とするのはほぼ確実です。不評なデータの扱いが、今後も続くことでしょう。

AppleのApp Store上の情報によると、Threadsは健康や金融情報、位置データ、ブラウザ履歴、連絡先などなどのデータを収集するそうです。でもだからって、Twitterのほうがプライバシー保護を重視しているというわけでもなく、まったく同じ情報をまったく同じように集めています。

でもTwitterの代替アプリがたくさんある中で、Threadsのデータの扱い方は、少なくとも優位性にはなりません

「ニュースを共有し開かれた議論をするための公明正大なプラットフォームを探す人には、Threadsは決して適していないでしょう」Tech Oversight Projectのエグゼクティブ・ディレクター代理、Kyle Morse氏は言います。

米国議会でのザッカーバーグ氏の痛々しい受け答えを見た人なら、データだけが問題ではないことを知っているはずです。

「人々はTwitterの、極右思想に引っ張られてしまう不快かつ危険な傾向、そして急速に崩壊しつつあるユーザー体験について腹を立てていて、それは当然です。でもだからといって、マーク・ザッカーバーグ氏が率いる次のソーシャルメディアプラットフォームを信じるのは、破滅へのレシピです」とMorse氏は付け加えます。

ヨーロッパでは使えない

Metaはヨーロッパではさらに大きな問題を抱えています。Threadsは米国や日本を含め100カ国以上で立ち上がりましたが、EU圏では使えないのです。

それは7月4日、Threadsデビューの前日にあった、EUの最高裁判所にあたる欧州司法裁判所の判決が理由のようです。

その判決とは、Metaのような企業に対し、複数アプリ横断の情報共有やユーザートラッキング、米国へのデータ送信を許さないというものでした。複数サービス間でのデータ収集を前提にビジネスモデルを構築してきたMetaにとって、これは死活問題です。

とくにThreadsにとっては、Instagramのユーザーネットワークが活かせなくなり、優位性を失ってしまいます。Threadsがヨーロッパでいつ立ち上がるのかは、そもそも立ち上げるのかどうかも含めて、不明です。EUの人口は米国のほぼ倍に相当するので、そのインパクトは大きいです。

「これは大きなことで、迂回策はないと思います。たとえばTwitterがヨーロッパでは使えないとなったら、製品としての魅力は激減するでしょう」業界団体、Digital Content NextのJason Kint CEOは言います。

一方でThreadsにとって何かが有利だとしたら、それはInstagramの規模ではなく、新オーナー下でのTwitterのふるまいです。Threadsがすぐに勝てるとは言いませんが、すぐに負けるわけでもありません

Bluesky、Mastodon、そしてThreads

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Twitterキラーは今、Threadsだけじゃありません。マスク氏がTwitterを買収してからは、Mastodonが爆発的にユーザー数を延ばしました。Mastodonファンはまだ多いですが、最近は旗色が悪くなっています。

最近Twitterからの脱出先として本命視されているのは、Twitter共同創業者のジャック・ドーシー氏が立ち上げたBlueskyです。その話題性と、アルゴリズムやコンテンツモデレーションへの急進的アプローチで、Blueskyはネット上のクールな人々が集まるデファクトの場となっています。

ただ、Facebookの歴史を振り返れば、競争に勝つにはクールである必要がないとわかります。ソーシャルメディアで最もクールなこととは、たくさんの人にポストを見られることだからです。

Threadsが最大シェアを確保できれば、Blueskyなどの競合を振り切れる立場になるでしょう。でもInsiderのEnberg氏が指摘するように、ソーシャルメディアは必ずしも、勝者がすべて独占するわけではありません。

「私はまだBlueskyにも望みがあると思います。面白みは薄れつつあり、より多くの人が使えるようになれば新規性も消えていくかもしれませんが、ThreadsがTwitterの代替そのものになるとは考えにくいです」とEnberg氏。

TwitterとMetaのプラットフォームではカルチャーがかなり異なり、BlueskyこそがよりTwitterらしい体験を求めるのにふさわしい場所たりえるかもしれません。

Twitterのテリトリーでは、2社かもしかしたら3社以上のプラットフォームが持ち場を見つけられるのではないでしょうか。

Threadsの最初の12時間は、始まる前から奇妙といえる競争が繰り広げられているレースでした。

ふたりのエキセントリックな億万長者がそれぞれ運営する似たようなアプリが、人々のオンラインのお気に入りの場という地位を奪い合っているのです。

しかも、ザッカーバーグ氏はこの10年米国で最も嫌われた人物のひとりでしたが、多くの人は彼の動きを評価しているというか、ほとんど熱烈に歓迎しているのです。つまり、マーク・ザッカーバーグって本当は良いヤツなんじゃないか、とみんなに思わせることに成功したのです。

マスク氏はMetaが今まで何億ドルをPRに費やしてもできなかったことを達成してしまいましたね。

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