1980年代にコミックとして誕生して以来、テレビアニメやゲーム、6本の劇場公開映画など、あらゆる形で愛されてきた『ミュータント・タートルズ』シリーズ。カメの4兄弟が、奇妙なネオンの液体(ウーズ)に触れたことで冗談好きなミュータントになってしまうというアドベンチャーは、世界中で多くのファンを魅了してきました。
9月22日に日本上陸した映画『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』は、タートルズ・ファンを公言する俳優・プロデューサーのセス・ローゲンの“カメ愛”が詰まった最新作。
2023年のニューヨークを舞台に、“普通のティーンエイジャーとして街のみんなに受け入れられたい”という願いを叶えるため、謎の犯罪組織に立ち向かう4兄弟の闘いがユーモアとアクション満載で描かれています。

ローゲンらと共に脚本を手がけ、監督を務めたのは、『ミッチェル家とマシンの反乱』(Netflixで配信中)で高い評価を受けたジェフ・ロウ。ユニークなアニメーションスタイルに、スパイク・ジョーンズやポール・トーマス・アンダーソン、アルフォンソ・キュアロンの作品からインスピレーションを得たという実写のようなカメラワークを交えて、新世代のタートルズの物語を完成しました。ここでは、日本公開を目前に控えた監督にインタビュー。製作の舞台裏について、たっぷりと語っていただきました。
これは紛れもない10代の青春物語なんだ
──監督は子どもの頃から『ミュータント・タートルズ』シリーズのファンだったそうですね。最初に映画の企画について聞いた時は、どのように思いましたか?
ジェフ・ロウ監督(以下J):とても興奮したし、もし自分がしくじって、この仕事をもらえなかったらどうしよう…と怖くなった。エージェントから、「ニンジャ・タートルズは好き? セス・ローゲンの映画は?」と聞かれて、「イエス!」と答えたら、「そっか。実はニンジャ・タートルズの映画が制作されるんだけど、君には無理だろうな」と言われたんだよ。もちろん、「ノーーー! なんでもするから、お願いだからミーティングさせて! チャンスをください」と懇願したよ。それから10回くらいミーティングを重ねたんだけど、まるでゲームのボス戦のようだった(笑)。さまざまな関係者と面談して、いかに自分が適任なのか説得し続けた。最終的にセス(・ローゲン/製作・出演)とエヴァン(・ゴールドバーグ/製作)までたどり着いて、同じビジョンを共有していることがわかったんだよ。僕たちはティーンエイジャーをテーマにした、高校生活のフィーリングを想起させるような映画を作りたかったんだ。とにかくリアルで地に足のついた作品にしたいと思った。
──確かに映画を観て高校時代を思い出しましたし、ミュータント・タートルズの物語なのに、とても共感できることに驚きました。本作はコメディでありながら、普通のティーンエイジャーとして愛されたいと願うタートルズを通して描かれた、受け入れることについての物語でもあります。監督はなぜこのような物語を伝えようと思ったのですか?
J:これは紛れもない10代の物語だと思う。僕は10代の頃、自分が人からどう思われているか異常に気にしていて、周囲に溶け込もうと必死でした。みんなに好かれたかったし、受け入れてほしかった。普通の人間だった僕でさえ、そう感じていたわけで(笑)。下水管で暮らしているミュータント・タートルズにとって、ハードルはさらに高いんだよね。だからこそ、これは物語を推し進める説得力のあるテーマだと思った。タートルズがその願いを叶えるのは難しいことだけど、受け入れられたいと願う気持ちは普遍的だから共感できる。特にティーンエイジャーは、そういった欲求が強いんじゃないかな。
──セス・ローゲンならではのユーモアが随所に光っていますが、プロデューサーとしての彼との仕事はいかがでしたか?
J:素晴らしかったよ。セスは、「このキャラクターにこんなこと言わせたらどうかな、知らんけど」という感じで、最高に面白いセリフを書くんだ。覚えておいて友だちに聞かせたいくらいのセリフが、彼の口からは大したことないように出てくる。劇中のセリフは、レコーディングしながら書いたものも多いです。タートルズ役の4人のキッズ(マイカ・アビー、シャモン・ブラウン・Jr、ニコラス・カントゥ、ブレイディ・ヌーン)を集めてレコーディングしたのですが、「君だったら友だちにどう話す?」とか、「もし弟とケンカしたら、君は何て言う?」とか聞きながら、即興で演じてもらった。キッズの意見を聞いたり、セスや僕がジョークを飛ばしたりして、進行しながら脚本を書き直していったんだ。その結果、とてもフレッシュでエキサイティングな作品に仕上がったし、彼らの演技に10代のエネルギーを活かすことができて本当に良かった。

──実際にティーンエイジャーが演じているのもいいですよね。大人が子どものフリをしていると、ちょっと引いてしまうこともあるので…。
J:“ヘイ! 俺はイケてるティーンエイジャーさ!”みたいな感じかな(笑)。
──まさにそんな感じです(笑)。また、『一流シェフのファミリーレストラン』のシドニー役でおなじみのアヨ・エデビリや、ジョン・シナ、アイス・キューブなど、他のキャストも豪華ですね。さらに、タートルズの父親のスプリンター役をジャッキー・チェンが演じていてびっくりしました。
J:ジャッキーと一緒に仕事ができたのは、一生忘れられないほど光栄なことだったな。
ジャッキー・チェンが出てくれたのは未だに信じられない
──ジャッキー・チェンをキャスティングした経緯は? 声を演じたスプリンターのアクションも、どこかジャッキーを彷彿とさせますよね。
J:一体どうやってジャッキーをキャスティングできたのか、そしてなぜ彼が「イエス」と言ってくれたのか、いまだにわかってない(笑)。でも、あの役は彼でなければならないと思ってた。ジャッキー・チェンは誰よりもアクションコメディが得意な俳優なので、僕たちはキャスティングする前から格闘シーンでジャッキーを参考にしてたいたしね。
──一緒に仕事をしてみて、いかがでしたか?
J:彼は北京にいたので、レコーディングは時差の関係でロサンゼルス時間の午前6時に行った。こちらは寝ぼけ眼だったんだけど、北京は一日の終わりの時間だったので、ジャッキーの方はとにかくテンションが高かった。でも、彼とのセッションはコーヒーよりも効くんだ。レコーディングが終わる頃には、「めちゃくちゃ面白かったね!」「ジャッキーって優しいよね!」「本当に良い人だったね!」といった感じで、僕たち全員とても興奮していた。ジャッキーと一時間仕事をするだけで、一日中ワクワクしていられる(笑)。彼は完璧なスプリンターだと思ったよ。

──本作はアニメーションのスタイルも非常にユニークですね。実写のようなライブ感もありながら、多くのCG作品では失われがちな、2Dアニメーションのような温もりも共存していて魅了されました。
J:2Dアニメーションでは、アーティストの“手”を感じることができるんだよね。自分が観ているものが人の手によって作られたということを想起させられるのは、本当に良いものだよ。多くのCG作品では、そういった感覚が失われてしまってる。僕たちは観客が観たことのないような、大胆なルックスの作品を作りたかったんだ。そこで重視したのは、10代の頃にわけもわからずに描いていた絵のようなスタイルにすることだった。
──授業中の落書きみたいに?
J:まさに! 落書きみたいにね。遠近感も形もおかしいし、左右非対称、そんな落書きみたいなイメージで。それはものすごく細かく描かれていることもあれば、ぼんやりして適当な部分もあって、線がはみ出しているところもあるんだ。作画にそんな10代のようなエネルギーを取り入れることで、まるでタートルズが自分たちで描いたように見せたかったんだ。

90年代と現代のポップカルチャーのリンク
──本作のサウンドトラックには、ブラックストリートの「No Diggity」やア・トライブ・コールド・クエストの「Can I Kick It?」など、90年代の楽曲が満載です。フォー・ノン・ブロンズの「What’s Up?」が流れるシーンは爆笑しましたし、ヴァニラ・アイスの「Ninja Rap」まで使われていて最高でした。監督は選曲にもアイデアを出したのですか?
J:ありがとう! 実は選曲こそが、僕が一番こだわっていたところだったんだ。多分周りのみんなはイライラしていたんじゃないかな(笑)。でも、とにかく素晴らしいサウンドトラックにしたかった。本作は現代を舞台にした、2023年の映画である必要があった。その一方で、自分にとってのニンジャ・タートルズは、80年代や90年代のもの。僕の頭の中では、いつまで経っても子どもの頃に体験したノスタルジックな作品なんだよね。90年代の音楽でサウンドトラックを構成することによって、そんなノスタルジックなフィーリングを呼び起こすことができた。また、劇中で流れる自慢気で自信たっぷりなヒップホップは、自分を信じて大きな夢を抱いている10代の少年たちの精神状態にぴったりだったんだ。
──劇中ではそんな90年代の音楽が、現代のポップカルチャーの要素と絶妙に共存しています。BTSやドレイクのネタも出てきますが、10代のキャストのアイデアも参考にしたのですか?
J:あれはすべてキッズからのアイデアで、BTSの曲も彼らが即興で歌ってくれた。ドレイクについては、英語版でラファエロ役を演じたブレイディ・ヌーンが、誰よりもドレイクを推している子だったんだよ。「セス、ドレイクのことは知ってる?」とか、「ねえ、この映画にドレイクをキャスティングできない?」とか、「映画が公開されたらドレイクに会えるかな?」とか、いつも言っているような子なんだよね(笑)。
──映画のスコアはトレント・レズナーとアッティカス・ロスが手がけています。音楽を制作してもらう上で、彼らにどのようなリクエストをしましたか?
J:基本的には2人におまかせする形だった。彼らの方から、スコアの一部をアマチュアバンドとかティーンエイジャーが作る音楽のようなサウンドにしたらどうかと提案されて、セスと僕は「最高だね、そうしよう」と大賛成した。あれほど素晴らしい音楽を作ってくれたんだから、僕からは「素晴らしい! ありがとう!」と伝えるだけだったよ。彼らは他の人にはない色彩で音楽を作っているのだと思う。本当に美しい特別な音楽を作ってくれたよね。

『もののけ姫』を見習い作品のエッジは削らなかった
──特に終盤のモンスターとの格闘シーンなどを観て、監督は日本のカルチャーからもインスピレーションを受けているのかな、と感じました。
J:小さい頃はゴジラが大好きだったんだ。ていうか、巨大な怪獣が嫌いな子どもなんていないよね(笑)。それから中学生の頃、アメリカのテレビで日本のアニメが放送されるようになったんだけど、『ドラゴンボールZ』や『新機動戦記ガンダムW』を観て、とても興奮したのを覚えている。少し大人になって、『カウボーイビバップ』を初めてみたときは、その芸術性やストーリーはもちろん、シリアスなシーンもあって、子ども向けに作られたようには感じられないことに魅了されたんだ。その頃、アメリカで制作されるアニメーションのほとんどは子ども向けに語られるものだったから、本当にワクワクしたし、夢中になったよ。

──確かにジブリ映画なども、決して子ども向けとは言えないですよね。本作も大人が観ていても楽しいですし、子ども向けに妥協している感じがしないところが気に入りました。
J:それを聞いて思い出したんだけど、僕は『もののけ姫』が大好きなんだ。あれは傑作だよ。『もののけ姫』は怖いけれど手加減はせず、エッジを削るようなこともしていない。本作にも少し怖いシーンがあるかもしれないけれど、エッジを削ったり、すべてを家族向けにわかりやすくしたりするようなことだけはしたくなかったんだよね。
──いよいよ日本でも公開されますが、作品を楽しみにしている映画ファンに伝えておきたいことはありますか?
J:この映画を観て、僕たちが特別でユニークなものを作るために注いだたくさんの愛情を感じてもらえたらうれしいです。過去のタートルズ作品へのオマージュも散りばめられているので、ぜひ探してみてください。

──すでに続編の制作も決まっているそうですね。現時点で教えていただけることはありますか?
J:シュレッダー(シリーズでおなじみのタートルズの宿敵)の映画になる予定なんだ。タートルズは準備万端だと思っているかもしれないけど、そんなことないから。10倍、いや100倍は大変なことになるし、乗り越えなければならないことがたくさん出てくるはずです。4人が今は楽しく暮らしていることを願うよ。もうすぐ大変なことになるからね!
Source : 『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』