プラスチックは天下の回りもの。
めちゃ細かく砕けて全世界に散らばってるプラスチックの破片、マイクロプラスチック。こやつが陸、海をめぐって、空で風に吹かれて、富士山の雲とかになって陸に戻っていることが早稲田大学の調べでわかりました。
雲水でマイクロプラスチックが検出されたのは世界でもこれが初めて。成果はEnvironmental Chemistry Lettersに公開されているほか、日本語でもこちらでくわしく読むことができます。
どういうこと?
プラスチックは上空で紫外線にさらされて劣化が進むと水を弾かなくなる性質があります。学校で雲ができるメカニズムを習ったとき、確か「地面や海の水が温められると水蒸気になって、空中の塵(ちり)と混ざって上昇して、塵に水がくっついて水や氷になる。その塊が雲」って習ったと思うんですが(日立、パナソニック、気象庁の解説)、この塵。マイクロプラスチックでもいけるんじゃね?という長年の疑問に解が示されたかたちです。
「プラスチックの雨」
大河内 博教授らの研究班では富士山山頂、丹沢大山山頂、富士山麓の3か所で2021~2022年に雲水44試料を採取。µFTIR ATRイメージング法で新たに開発した手法で計測した結果、雲水1リットルにつき6.7~13.9片のマイクロプラスチック(直径5mm未満の破片)が発見されました。内訳はポリマー9種とゴム1種ですけど、こんなところにまで…と思わずにいられません。
研究班の次の解説を読んで、二度ゾッとしてしまいました。
雨水はすべての陸水の源ですが、雲水にAMPs(大気中マイクロプラスチック)が含まれていれば「プラスチックの雨」が地上に降り注ぐことになります。
世界規模の大気汚染状況がわかる自由対流圏でサンプル回収
海外でこのニュースを見た人のあいだからは「日本はプラごみ燃やすからなあ」といった感想も出ていましたが、富士山山頂は標高3776mありますので、突風に乗ってものすごく遠くの汚染物質が運ばれてくる自由対流圏。地上の影響を受けにくく、地球規模の汚染状況を把握できる数少ない観測ポイントとして知られているんですね。
どれくらい混入しているの?
マイクロプラスチックがどのような経路を辿って雲に混入したかは不明ですが、今は南極の雪にも、北極海の氷の下にも、ヒトの血中にまでマイクロプラスチックはありますし、極端な話、アクリル、ナイロン、ポリエステルとかの合成繊維の服は着ているだけでマイクロプラスチック放出しちゃってる状況なので特定は難しそう。いちおう海かなってことらしいですが…。
研究は遅れている
大気の上層部でマイクロプラスチックが大量に見つかれば、乱反射、降水量、気象変動への影響も懸念されると研究班。また、紫外線の強い上空は劣化速度が速いので、劣化で放出される温室効果ガス(メタンや二酸化炭素)も懸念材料ですが、こちらの分野は研究がだいぶ立ち遅れているそうなのです。
「“プラスチック大気汚染”の問題に積極的に取り組まないと、気候変動や生態系のリスクが現実となって、いずれ取り返しのつかない深刻な環境被害を引き起こしかねない」と研究班の大河内博教授は述べていますよ。
マイクロプラスチックといえば、ほ乳類の脳への影響も気になりますよね。夏には、マウスの脳に悪さをして行動変容を来たすことが明らかになっています(マイクロプラスチックを混ぜた水を飲ませたら、消化器官のみならず肝臓、脾臓、腎臓など体中に蓄積されているのが見つかった)。
逃げ場なし。
Sources: Waseda Univ