医療は、希望。
アメリカの医師グループが眼球の移植に成功し、医学史にその名を刻みました。術後6カ月たった今も大きな問題もなく、移植を受けた患者の健康状態も良好とのこと。ただ、残念ながら視力の回復にまでは及んでいないそうです。
ロイター通信が11月9日に報じたニュースによると、ニューヨーク大学ランゴン・ヘルスの外科チームが今年5月にこの手術を実施。手術を受けたのは46歳の退役軍人アーロン・ジェームスさん。仕事中に高電圧の電気事故に遭い、眼球を含む左半身と顔の大部分に大けがを負ってしまったのです。そんな彼の手術を手がけた同医療チームが、主に美容目的で眼球全体の移植に挑戦しました。

視力回復には、目と脳の交信が必須
現在、ケガや病気を負った目の機能のうち、移植可能とされているのは角膜(眼球の最前面の透明な層)のみ。今回の手術で第一の目的は、提供された眼球を患者の身体に移植し、長期にわたって生存させること、そしてそれが実現可能であることを示すことでした。つまり視力の回復を目指した手術ではありません。
それでも、同時にドナーの幹細胞を視神経に注入することで、眼球が視神経を介して脳と交信する確率を高めることは試みていたのです。視力の回復には眼球が移植先の脳と通信することが必須条件ですから。そうして、21時間におよぶ手術は終わりました。
執刀医のエドゥアルド・ロドリゲス医師はロイターに対し、
何らかのかたちで視力が回復すれば素晴らしいことですが、今回はあくまで技術的な手術を行なうのが目的でした。
と語りました。
視力は回復しなくても、ここからあらたな一歩が始まる
手術から6カ月たった今も、眼球は健やかに保たれているようです。ロイターによると、医療チームは眼球に血液を供給する血管が十分に機能していること、さらには「有望な網膜」を発見したといいます。しかし、ジェームズさん自身は視力が回復したとは言っておらず、同チームも眼球と脳との交信を見つけることはできていません。
ロドリゲス医師は、視力が回復する可能性はまだ残っていると話し、今後もジェームズさんの経過を観察し続ける予定だそう。しかし仮に視力が戻らなかったとしても、今回の移植から得られた教訓が、あらたな一歩につながる可能性は十分にあります。研究チームは、視神経細胞が脳と行進する仕組みを模倣した電子インプラントなど、いつか今回のような手術を、視力回復を目的とした他の新技術と組み合わせることも実現可能だと考えています。ともあれ、ジェームズさん自身は、移植に成功したことに感謝しているようです。
ジェームズさんはロイターに対し、次のように話しています。
私は彼らにこう言いました。
「たとえ私の目は見えなくても、少なくとも皆さんは次の誰かを助けるための何かを学ぶことができるでしょう」と。
こうして次に向かっていくのです。これで新たな道が開けることを願っています。